イギリスで,貴族や富裕な郷紳階級の,いなかの所領にある本邸を呼ぶ(これに対し,社交シーズンや議会の会期中にロンドンで滞在するのに使うのが,タウン・ハウスtown houseである)。本来は中世期の荘園所領の地主の屋敷としてのマナー・ハウスであったものが,16世紀チューダー朝期の富の蓄積と,建築技術のいちじるしい発達によって,他国の宮殿に匹敵するような広壮なカントリー・ハウスの建設がさかんになった。この傾向は18世紀まで続き,イギリス各地にみごとな建築群を残した。ヨークシャーのカスル・ハワード(1712),オックスフォード近郊のブレニム宮殿,ダービーシャーのケドルストン・ホール(1770)などがその代表例で,様式的にはパラディオの邸宅やビラ,フランス・バロック期の邸館をモデルにしたものが多い。フランスのシャトーchâteau,イタリアのビラと並んで,イギリスの古い社会秩序の象徴である。それぞれがもつ庭園や,美術品コレクションの価値も高く評価される。こんにちでは主要なカントリー・ハウスのほとんどが重要文化財としてナショナル・トラストに管理され,多くは一般観光客にも開放されている。
執筆者:川崎 寿彦+桐敷 真次郎 カントリー・ハウスは,同時に地方の町家や民家をもいう。たとえばストラトフォード・オン・エーボンにあるシェークスピアの生家のようにチューダー朝期の町家などは切妻屋根,オークの太い柱に漆喰の壁からなる簡素な形式を示した,カントリー・ハウスの典型である。また,その土地の指物師の手で製作された家具・調度をカントリー・ファニチャーと呼ぶ。地方の町家や民家で日常使われたパネルバック・チェアやラダーバック・チェア,ろくろ加工による挽物(ひきもの)部材から構成されたイギリスのウィンザー・チェア,甲板の左右に垂れ板をつけたゲートレッグ・テーブル(エクステンション・テーブル)などは実用的な機能を備え,簡素でいなかの生活様式にふさわしい。〈カントリー〉という言葉には〈いなか〉〈地方〉という意味のほかに,〈素朴〉〈野暮〉といった意味があり,上記のようないなかの自然環境と古い生活様式のなかで生まれた住宅・家具・調度などに共通して見られる様式を総称してカントリー・スタイルと呼ぶ。16世紀に生まれたこの様式は,17世紀にはしだいに地方的特色が生まれ,18世紀が最盛期であった。18世紀後期からは交通機関や郵便施設の進展で都会の流行様式が地方にも移入され,産業革命の進展により19世紀後期にはカントリー・スタイルの特色は消滅した。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…アルベルティはフィレンツェに建つパラッツォ・ルチェライPalazzo Rucellai(1446‐51)の正面壁面にローマのコロセウムに由来するオーダーとアーチの組合せのデザインを応用し,ルネサンス的な意匠をもつ都市邸宅の端緒を開いた。イギリスのスミッソンRobert Smythson(1535ころ‐1614)は,ホールを中心とする中世的な大邸宅に左右対称の壁面構成を与える試みを,ロングリート・ハウス(1568‐75ころ)等のカントリー・ハウスの設計を通じて行った。またイタリアのセルリオはフランスに赴いてフォンテンブローのグラン・フェラール(1544‐46)等の都市邸宅を設計し,オテルと呼ばれるフランスの都市住宅の原型をつくり上げた。…
※「カントリーハウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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