フランスの詩人ボードレールの散文詩集。1855~67年に新聞・雑誌に掲載された45編に、未発表の五編と韻文のエピローグを加えて、69年、死後刊行の全集第四巻中に『小散文詩』の表題のもとに初めてまとめられた。アルセーヌ・ウーセーArsène Houssaye(1815―96)にあてられた序文に説明されているとおり、「韻律も脚韻もないが音楽的な詩的散文」を大都会での「現代の抽象的な生活」の叙述に適用するのみならず、そこに生きる人々の「魂の叙情的な動きや夢想の波動や意識の動揺」の表現の器とする試みは、在来の定型詩には収まりきれない複雑微妙な叙情の世界をつくりだした。それはランボー、ロートレアモン、マラルメらを経て現代詩にも多大な影響を及ぼしている。
[横張 誠]
『阿部良雄訳『パリの憂鬱』(『世界文学全集55』所収・1981・講談社)』▽『福永武彦訳『パリの憂鬱』(岩波文庫)』
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