フランスの詩人。本名イジドール・デュカス。ウルグアイの首都モンテビデオに生まれる。中等教育は父母の故郷であるフランス南西部のタルブ、ついでポーで受ける。そのあとパリに出、理工科大学校(エコール・ポリテクニク)受験を準備していたと思われるが、詳細は不詳。1870年11月23日、孤独のうちに死んだが、その状況も明らかでない。彼の残した作品としては、ロートレアモン伯爵の筆名による長編散文詩『マルドロールの歌』(1869作)と小冊子『ポエジー』Ⅰ・Ⅱ(イジドール・デュカス著、1870)があるだけである。悪と反抗をうたう過激な書『マルドロールの歌』は1868年に「第一の歌」のみ発行、翌年全体(「第一の歌」から「第六の歌」まで)が印刷されたが、検閲を恐れて配本されなかった(没後1874発売)。『ポエジー』は、きたるべき詩の「新しき学」を目ざすアフォリズム集のごときものであるが、字句、内容に『マルドロールの歌』と組織的に対立するところがあるため、その意図、解釈をめぐってさまざまな議論がなされてきた。
19世紀においてほとんど読まれることのなかった彼の作品は、20世紀に入って、主としてシュルレアリストたちによって「発見」され、以後、現代の「テル・ケル」派(ソレルス、プレネ、クリステバら)に至るまで、一種越えがたい極限を示す言語として、ランボー、アルトー、ジョイスなどとともに、現代の作家たちから仰ぎみられる存在になった。
[豊崎光一]
『栗田勇訳『ロートレアモン全集』全1巻(1968・人文書院)』▽『マルスラン・プレネ著、豊崎光一訳『彼自身によるロートレアモン』(1979・白水社)』
フランスの詩人。本名はデュカスIsidore-Lucien Ducasse。南アメリカのウルグアイのモンテビデオに生まれた。両親ともフランス人で,父親はモンテビデオ駐在のフランス総領事書記,母親はイジドール誕生後1年で他界した。彼の生涯の詳細はほとんど不明で,近年高校時代の写真が1葉発見されて大きな話題を呼んだが,それまでは肖像も知られていなかった。わずかにわかっているところでは,14歳で単身フランスに渡り,タルブ,ポーの高等中学校(リセ)で学んだのち,65年ころパリに現れて下宿を転々,66年ころから創作に熱中したが,無名のまま70年末に24歳の生涯を閉じた。死後も長く埋もれたままであったが,20世紀に入ってブルトン,アラゴンらのシュルレアリストたちによって激賞されて以来,シュルレアリスムの先駆者として,またランボーと並ぶ天才詩人として一躍有名になった。自費出版の散文詩集《マルドロールの歌Chants de Maldoror》(1869)は,六つの部分から成り,悪の化身マルドロールを主人公に,神への反逆と呪詛,人類への愛と憎悪を激越な言葉で歌い上げているが,そこでは奔放な幻想と数学的な正確さ,深層心理的情念の噴出と即物的表現とがふしぎな一致をみせている。一方,本名で出版された《ポエジー,未来の書の序》(1870)は,一転して善行と信仰をたたえ,絶対的肯定の態度を表明していて,彼の謎の一つとなっている。
執筆者:渋沢 孝輔
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