ヒストプラズマ症(読み)ヒストプラズマしょう(英語表記)histoplasmosis

改訂新版 世界大百科事典 「ヒストプラズマ症」の意味・わかりやすい解説

ヒストプラズマ症 (ヒストプラズマしょう)
histoplasmosis

ヒストプラズマ・カプスレータムHistoplasma capsulatumによって起こる全身性感染症。1934年にD.トムキンスらによって発見された。とくに北米中南米に地方病的にみられ,ミシシッピ川流域が濃厚な流行地である。菌は,窒素分の多い土壌,鳥,コウモリなどの糞で汚染された土壌中から分離され,これらの流行地住人あるいは訪問者に感染する。感染は通常胞子の吸入により生じるが,感染者のほとんどは無症状で,X線検査で肺に石灰化巣が見つかるか,ヒストプラスミン皮内反応で見いだされる。急性あるいは慢性の肺ヒストプラズマ症,貧血白血球減少を伴う播種性ヒストプラズマ症の病型がある。流行地への立入り,肺X線検査,皮内反応で診断され,治療としてはアムホテリシンBの点滴が行われる。皮膚,リンパ節,骨を侵すアフリカヒストプラズマ症は,ヒストプラズマ・デュボイジイHistoplasma duboisiiの感染によって生じ,アフリカ大陸に地方病的にみられる。アムホテリシンBの全身投与または限局病巣を切開排膿する。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

内科学 第10版 「ヒストプラズマ症」の解説

ヒストプラズマ症(真菌症)

(2)ヒストプラズマ症(histoplasmosis)
 コクシジオイデス症と並んで最も重要な輸入真菌症である.原因菌は二形性真菌のHistoplasma capsulatumであるが,菌種によりカプスラーツム型とズボアジ型とに分類される.流行地域は広汎で,前者は南北アメリカ,東南アジアなど,後者はアフリカでしばしばみられる.いずれも分生子の吸入により感染する.カプスラーツム型では潜伏期は通常1~4週間とされるが,初感染後の再燃も多い.細胞内寄生菌であり,肺から肝,脾,骨髄などの細網内皮系や副腎前立腺などの諸臓器に播種する.胸部X線写真ではびまん性粒状影,結節影,肺門リンパ節腫脹,胸水貯留(急性肺ヒストプラズマ症),浸潤影,線維化,空洞などが認められる(慢性).播種性では肝脾腫,貧血,粘膜潰瘍などを呈する.危険因子として,細胞性免疫障害(AIDSや,ステロイド投与など)がある.基礎疾患のある場合は特に致命率が高い.診断は菌の培養同定,病理組織学的検査,血清検査(抗原・抗体検出)などにより行う.ズボアジ型では皮下組織を中心として病変を形成し深部臓器への播種は少ない.治療は抗真菌薬(アムホテリシンB,イトラコナゾールを中心としたアゾール薬)の投与を行う.[亀井克彦]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒストプラズマ症」の意味・わかりやすい解説

ヒストプラズマ症
ヒストプラズマしょう
histoplasmosis

卵円形で大きさ1~5μmの分芽菌による感染症。 1934年に D.トンプキンズらが報告した。世界各地に散在するが,ことにアメリカのミシシッピ川やオハイオ川流域に多発している。限局性のものと全身性のものとがある。限局型は一般に無症状で約半数は自然に治癒する。全身性のものは脾腫や肝腫を伴い,なおりにくい。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のヒストプラズマ症の言及

【熱帯医学】より

…このほかに真菌類によって引き起こされる熱帯地方特有の疾病も多い。たとえば,中南米,インドネシア,アフリカおよび北アメリカにみられる呼吸器系感染症であるヒストプラズマ症histoplasmosis,南アメリカおよび北アメリカにみられるコクシジオイデス症coccidioidomycosis,南アメリカにみられるブラストミセス症blastomycosisなどがある。 スピロヘータ類によるものには,フランベジアframbesia(yaws),回帰熱,ワイル病,レプトスピラ症などがある。…

【菌類】より

… 真菌症は健康人に常在する菌類が,なんらかの原因で病原性を表し発症する内因性真菌症(このような感染を日和見感染という)と,本来は常在しない菌類が抵抗力の低下によって感染し発症する外因性真菌症に分けられる。前者には放線菌症,カンジダ症があり,後者にはアスペルギルス症,クリプトコックス症,ヒストプラズマ症などがある。外因性真菌症には,アスペルギルス症のように,世界的にひろくみられるものと,コクシジオイデス症などのように,局地的にみられるものとがある。…

【熱帯医学】より

…このほかに真菌類によって引き起こされる熱帯地方特有の疾病も多い。たとえば,中南米,インドネシア,アフリカおよび北アメリカにみられる呼吸器系感染症であるヒストプラズマ症histoplasmosis,南アメリカおよび北アメリカにみられるコクシジオイデス症coccidioidomycosis,南アメリカにみられるブラストミセス症blastomycosisなどがある。 スピロヘータ類によるものには,フランベジアframbesia(yaws),回帰熱,ワイル病,レプトスピラ症などがある。…

※「ヒストプラズマ症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android