日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ビジネス・インキュベーション
びじねすいんきゅべーしょん
business incubation
創業間もない企業に対し、事業を行う場所を提供し、経営アドバイスを行って事業化の成功確率を高めること。創業・新事業創出支援。インキュベーションを行う専門の施設を伴う機関をビジネス・インキュベーターbusiness incubatorという。インキュベーションとは、もともとは英語で「卵の孵化(ふか)」の意味だが、businessという語が付加され、経済用語として創業や新規事業の立ち上げを支援するという意味で用いられるようになった。ビジネス・インキュベーターは単なる賃貸オフィスではなく、通常は企業の育成・支援にあたるインキュベーション・マネジャーが常駐し、経営アドバイスや専門人材の紹介、事業提携先とのマッチング、補助金等の申請支援、金融機関等への融資申し込み支援などのサポートを行う。また、事務所や研究施設の賃貸(通常は市価より安い賃料で賃貸)、受付・秘書サービス、会議室貸出、OA機器の共同利用など、設備とビジネス・サービスの提供を行う。入居型の施設を用いないインキュベーションを、インキュベーション・システムズという。
ビジネス・インキュベーターは、1959年にアメリカ、ニューヨーク州バタビアBataviaのジョセフ・マンキューソJoseph L. Mancuso(1920―2008)が、所有する古い工場を小部屋に分けて貸オフィスとしたことに始まる。このバタビア・インダストリアル・センターには失業者が創業した小さな企業が入居してきたため、マンキューソはあらゆる経営の相談に応じ、それらの企業の経営が軌道に乗るのを助けたことがビジネス・インキュベーションの起源といわれる。その後、アメリカではあまり発達しなかったが、1977年にイギリスのグラスゴー近郊にあるブリティッシュ・スチールBritish Steel plcのクライド製鉄所によって創設されたインキュベーターが成果を上げ、アメリカで再度注目を浴びるようになる。1979年、シカゴ郊外の古い工場に開設されたフルトン・キャロル・センターFulton-Carroll Centerが失業者の経済的自立に貢献したことが評価され、1980年代初頭から、地域における新事業創出および雇用創出の有効な手法として注目されるようになり、全米各地で次々と設立された。全国団体である全米ビジネス・インキュベーション協会(NBIA)では、ロビー活動のほか、ビジネス・インキュベーター設立支援、マネジャーの養成・研修、運営手法の研究とベストプラクティス(成功事例)の周知など、インキュベーションの発展・普及のためにさまざまな活動を実施している。
日本では、1980年代半ばにアメリカのインキュベーターをモデルに導入されたが、当初は設備面のみに着目し、経営アドバイス等の支援サービスは行われていなかった。1998年(平成10)に新事業創出促進法が制定され、ビジネス・インキュベーターの設立・運営に対する国の支援が講じられるようになり、ようやくインキュベーション・マネジャーの常駐と経営支援サービスの提供が行われるようになった。1999年、日本新事業支援機関協議会(JANBO)が設立され、インキュベーション・マネジャーの養成や優秀インキュベーター等の表彰などを実施したが、2008年、新事業創出促進法の廃止とともに解散した。JANBOの趣旨と主要な業務(マネジャーの養成、インキュベーターの運営支援、調査・研究など)を踏襲し、2009年に一般社団法人日本ビジネス・インキュベーション協会(JBIA)が設立された。
[鹿住倫世]
『星野敏著『よくわかるビジネス・インキュベーション』(2001・同友館)』