ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビュートリヒ」の意味・わかりやすい解説
ビュートリヒ
Wüthrich,Kurt
スイスの生物物理学者。 2002年「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」のうちの「生体高分子の立体構造決定のための核磁気共鳴分光法の開発」で J.フェン,田中耕一らとともにノーベル化学賞を受賞した。 1962年スイスのベルン大学卒業後,64年スイスのバーゼル大学で化学の博士号取得。同大,アメリカのカリフォルニア大学バークレー校の博士研究員,ベル研究所などを経て 69年スイス連邦工科大学に移る。 80年同教授。 2001年からカリフォルニア州ラホヤのスクリップス研究所の構造生物学客員教授を兼任している。ビュートリヒは分子を作っている原子核を外部磁場で揺り動かして調べる核磁気共鳴 NMRに取組み,蛋白質の中の各水素原子核の共鳴情報と原子核同士の距離が関係すること (原子核オーバーハウザー増強効果,NOE効果) を利用するなどして,各原子核間の距離を求める原理を開発,さらに蛋白質全体の3次元的「構造図」を描く方法を開発した。これにより,1985年に「蛋白質分解酵素阻害酵素 IIA」という蛋白質の立体構造を世界で初めて作ってみせた。 NMRは蛋白質の構造を生体に近い状況である溶液中で測れるのが長所で,遺伝子が調べられたあとの蛋白質分析などいわゆるポストゲノムの生物学では不可欠な方法として世界中の研究室で使われている。
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