精選版 日本国語大辞典 「核磁気共鳴」の意味・読み・例文・類語
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原子核による磁気共鳴のこと。アメリカのラービが分子線による核磁気共鳴を最初に行った。1946年にブロックとパーセルによって、独立に、固体および液体についての核磁気共鳴が観測され、並行して統計熱力学的な理論も建てられ、物性物理学の一つの重要な分野となった。この業績により、1952年ブロックとパーセルにノーベル物理学賞が授与された。共鳴周波数は磁界の強さ、核の種類により、数メガヘルツから数百メガヘルツの範囲となる。以下、固体や液体についての核磁気共鳴について記す。
電子による磁性をもたない物質中の原子核は、磁界が加えられたときには、それぞれの磁気量子数によって複数のレベルに分岐するが、熱平衡にある物質にあっては、これらのレベルのそれぞれを占める核の数は、ボルツマン統計に従って のAのようにエネルギーの低いレベルほど多くなっており、磁化Mをもつ。この系に磁気共鳴を行わせると相隣るレベルの間に転移がおこるが、下方のレベルほど占有数が多いので転移のおこる数が多く、高周波の強度に従って、 のBのように上下のレベルの占有数の差を少なくするような状態で平衡に達する。この状態では、電磁波の定常的な吸収がおこっている。この吸収を測定するのがパーセルの磁気共鳴の検出方法である。さらに強い高周波によって激しい転移をおこさせると、 のCのように、上下のレベルを占める数が同じになってしまう(磁化はゼロになる)。この状態では転移はおこっても占有数の変化はなく、電波の吸収もなくなる(飽和)。いま、BとかCの状態のもとで高周波を切ると、系はふたたび元の熱平衡状態 のD(Aと同じ)に、時定数(じていすう)T1をもつ指数関数的に戻っていく。このT1をスピン格子(こうし)緩和時間という。なお、吸収と同時に分散現象も生ずるので、その測定から磁気共鳴を観測することもできる(ブロックの検出方法)。また、物質中には核は多く含まれており、それらの間に磁気双極子相互作用があるので、それぞれの磁気レベルは幅をもっており、この幅は共鳴線の幅に寄与する。この幅を時間に変換したときの時定数をスピン・スピン緩和時間T2という。
電子による磁化のない物質においても、反磁性的な性質はもっているので、磁界がかけられたときには、核の位置にごく微細な影響を及ぼし、共鳴周波数が少し変化する。これはその核を取り囲む分子の構造に依存するので、このわずかな変化を化学シフトという。T1、T2、化学シフトは、物質の構造、状態に大いに依存するものであるので、これらの測定から多くの物性的情報が得られ、核磁気共鳴が物性研究の一つの手段として重要なものとなった。当初は前述のように、連続した高周波で観測していたが、1950年代になって高周波パルスを用いる方法(スピン・エコー)が開発され、現在ではこれが主流となっている。
前述の磁気双極子相互作用は液体中においては分子の速い運動で平均化され、共鳴線の幅はたいへん狭いものとなる。したがって、異なる構造の有機物の共鳴はお互いに分離して観測できる。これを利用して、有機化合物の構造解析用の装置も早くから開発されている。さらに物体の各部各部の共鳴の強度を測定し、コンピュータ・グラフィクスの手法を用いて画像化すると、対象としている核の分布を目の当たりにすることができるようになり、これを利用して医学的な診断に用いる装置(MRI)が1990年代になって急速に進歩し、医療機関には必須(ひっす)のものとなった。このMRIの原理の発見に対して、2003年のノーベル医学生理学賞が、ラウターバーとマンスフィールドに与えられた。
[伊藤順吉]
『益田義賀著『核磁気共鳴の基礎』(1985・丸善)』▽『荒田洋治著『NMRの書』(2000・丸善)』▽『安岡弘志著『岩波講座 物理の世界 ものを見るとらえる3 核磁気共鳴技術』(2002・岩波書店)』▽『阿久津秀雄・嶋田一夫・鈴木栄一郎・西村善文編『日本分光学会測定法シリーズ41 NMR分光法――原理から応用まで』(2003・学会出版センター)』
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略称NMR.磁気共鳴分光法の一つ.静磁界中でゼーマン分裂した核スピンの準位間の遷移が,分裂のエネルギー間隔に対応する振動数の電磁波によって共鳴的に起こる現象で,核磁気共鳴吸収,核磁気誘導,スピンエコーなどの方法によって観測される.核磁気共鳴の研究は,共鳴周波数のずれから原子核の周囲の電子の状態を知ったり,共鳴の幅から原子拡散,分子回転の様子を知ることなどに利用される.[別用語参照]化学シフト
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…近年の高分解能質量分析器は原子質量単位でppmのオーダーの感度をもち,元素分析法の一つとしても利用されている。核磁気共鳴は,もともと核の磁気モーメント測定手段として,ブロッホFelix Bloch(1905‐82)とパーセルEdwards Miles Purcell(1912‐97)によって独立に考案された。しかし共鳴周波数は核の種類だけではなく,その化学的環境にも依存すること(化学シフト)が発見されて以来,核磁気共鳴は化学者によって貪欲に開発された。…
※「核磁気共鳴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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