日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピナツボ火山」の意味・わかりやすい解説
ピナツボ火山
ぴなつぼかざん
Pinatubo Volcano
フィリピンのルソン島中部、マニラ市北西方約90キロメートルにある安山岩とデイサイトからなる活火山(標高1486メートル)。1991年に約500年ぶりに噴火した。1991年4月に山の各所から噴煙が出始め、地震が続発。6月9日から水蒸気爆発を反復するとともに、山頂に安山岩の溶岩円頂丘(ドーム)が出現した。その後大規模なプリニー式噴火が繰り返された。噴煙は同月12日に高度約2万メートル、15日には約3万メートルに達し、規模の大きな火砕流が繰り返して発生した。噴出物はデイサイト質、総量約10立方キロメートルで、1912年のアラスカのカトマイ火山の噴火に次いで20世紀世界最大の噴火。火山爆発指数は6。とくに15日には多量の火山灰と二酸化硫黄が成層圏に達した。爆発的な噴火は15日で終わったが、山腹に厚くたまった火砕流堆積(たいせき)物のあちこちで二次的な爆発が繰り返された。降雨時には泥流(土石流)が頻発した。この噴火によって山頂部に直径2.5キロメートルのカルデラができ、標高が260メートル低くなった。カルデラ底には翌年まで溶岩ドームが成長した。現在はカルデラに水が年々蓄えられており、このカルデラ湖の決壊によって、土石流が麓(ふもと)の市街地に被害を与えることが懸念されている。火山灰の降下堆積による被害が大きく、東麓(とうろく)にあったクラーク米空軍基地は廃止された。噴火による直接の犠牲者が約330人だけだったのは、地震、地盤傾斜などの観測結果によって順次出した警報が的中し、避難が励行されたためである。地質調査では約500年前に噴火しており、それに基づくハザードマップと今回の噴火の火砕流などの範囲はほぼ一致した。噴火活動や土石流はその後も反復され、犠牲者も92年末までに累計約800人を数えた。
[諏訪 彰・中田節也]
『荒牧重雄・白尾元理・長岡正利編『空からみる世界の火山』(1995・丸善)』▽『吉田正夫著『自然力を知る――ピナツボ火山災害地域の環境再生』(2002・古今書院)』