火砕流(読み)カサイリュウ(その他表記)pyroclastic flow

翻訳|pyroclastic flow

デジタル大辞泉 「火砕流」の意味・読み・例文・類語

かさい‐りゅう〔クワサイリウ〕【火砕流】

火山灰軽石スコリア岩滓がんさい)などが火山ガスと混合し、一団となって火口から一気に流れ下る現象。マグマの粘性が大きい場合に生じ、しばしば大きな被害をもたらす。
[補説]「火砕流」は「火山砕屑流」(→火山砕屑物)を略した語。火砕流の概念は1950年代後半に日本の火山学者荒牧重雄らによって定義が整理された。
[類語]噴火水蒸気爆発御神火溶岩

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共同通信ニュース用語解説 「火砕流」の解説

火砕流

噴火で火口から噴き出した高温の火山ガスや空気、火山灰、溶岩の破片などが一体となって高速で斜面を流れる現象。中心部の温度は600~700度に達することもあり、進路上にある森林や住宅が燃えて破壊される被害が生じる。火砕サージという熱風を伴う。1991年の長崎県雲仙・普賢岳の噴火や、2014年の御嶽山噴火で発生した。

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精選版 日本国語大辞典 「火砕流」の意味・読み・例文・類語

かさい‐りゅうクヮサイリウ【火砕流】

  1. 〘 名詞 〙 火山から噴出した火山砕屑(さいせつ)物が、斜面を流れ下る現象。岩滓(がんさい)流、軽石流火山泥流、火山弾流などがあり、大きな災害をまねくこともある。固結すると火山岩屑流(せつりゅう)堆積物となる。火山岩屑流。

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改訂新版 世界大百科事典 「火砕流」の意味・わかりやすい解説

火砕流 (かさいりゅう)
pyroclastic flow

火山の噴火の際に,大量の軽石や火山灰が,一団となって山腹を高速度で流下する現象。かつては火山砕屑流とも呼ばれた。ふつうは,高温の固形物質(火山砕屑物)とガス(空気または水蒸気)の混相流(粉体流)を指し,重力によって駆動される。構成物質の大部分が軽石の場合は軽石流,火山灰の場合は火山灰流,スコリアの場合はスコリア流と呼ばれる。小規模の火砕流は熱雲とも呼ばれる。火砕流の規模は大小広い範囲にわたるが,その規模により三つに分類する。小規模のものは噴出物量が10⁻4km3(10万t)以下で,ブルカノ式噴火に伴って発生することが少なくない。中間型のものは数km3以下で,日本の成層火山の大噴火(例えば大規模プリニー式噴火)にしばしば伴って発生する。大規模火砕流は10km3以上の火砕物を噴出するもので,発生頻度は大きくないが,数百km2以上の広い地域を覆うので,大災害をもたらす。また噴出口周辺は陥没してカルデラを生じる。小型火砕流の例としては,1902年西インド諸島プレー火山の爆発の際発生したものが有名で,時速100km以上で火口から8km離れたサン・ピエール市を襲い,2万8000人が全滅した。また1783年(天明3)浅間火山で発生した鎌原(かんばら)火砕流は死者約1200人の被害を与えた。これら小型の火砕流はしばしば発生するが,その予知は難しく,火口から10km以上の距離を高速度で流走するので大きな被害をもたらす場合がある。中間型の火砕流の出現頻度は少ないが,浅間火山1783年の吾妻火砕流(0.1km3),1108年の追分火砕流(1.0km3)や駒ヶ岳(北海道)1929年の軽石流(0.3km3)などの例がある。いずれもマグマから直接由来した岩塊(本質岩塊)は中程度の発泡を示し,数m~20mの厚さの堆積物を生じた。大型の火砕流はすべて発泡度の高い軽石やスコリアを本質岩塊として含み,厚さ数十m以上の堆積物を生じる。約2万2000年前,鹿児島湾の北部で大噴火が起こり,約100km3の火山灰や軽石が噴出した。その大部分は大型の火砕流として鹿児島県と宮崎県全域にひろがり,最大厚さ200mの白っぽい色の火山灰質堆積物を生じた。現在その一部がシラス台地として残存している。この噴火の際上空に噴き上げられた細粒の火山灰は1000km以上離れた地域にまで降下した(AT火山灰)。この噴火の結果鹿児島湾北部は陥没して,直径20kmの姶良(あいら)カルデラを生じた。このような大規模火砕流堆積物は,その自重と高温のため中心部が固く溶結して,一見溶岩のようにみえる岩石(溶結凝灰岩)となる。日本列島にはこのような大規模火砕流とそれに伴うカルデラが20例以上ある。高速で流れる火砕流のエネルギーは,火口からいったん空中高く放出された火砕物が落下してくる位置のエネルギーによるものと考えられる。流走中の火砕流では,含まれる大量の火山灰が流動化しているため,内部摩擦が小さくなり,見かけの粘性が著しく低下し長距離を高速で流走すると解釈される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「火砕流」の意味・わかりやすい解説

火砕流
かさいりゅう

火山灰、火山ガス、溶岩片などが一団となり、高速で山の斜面を流れ下る現象のこと。一般に高温で、最高時速150キロメートルを越えることがある。火砕流は、安山岩デイサイト、流紋岩など粘り気の高いマグマの噴火によってできた火山で発生することが多いが、玄武岩の火山においても発生することがある。1902年の西インド諸島のフランス領マルティニーク島プレー火山で発生した火砕流は、サン・ピエール市街地を襲い、約2万8000人の市民が一瞬にして火砕流の犠牲となった。火砕流は、爆発的噴火の際に火口から四方八方に流れ下ることや、火口付近の溶岩円頂丘(溶岩ドーム)や溶岩流が崩れて発生することがある。後者は比較的規模が小さく熱雲ともよばれており、サン・ピエールを襲ったものは、これである。カルデラをつくるような規模の大きな噴火に伴う火砕流は、軽石流や火山灰流ともよばれている。阿蘇(あそ)山では約32万年前から9万年前にかけて4回の大きな火砕流噴火がおこり、その結果、山頂部が陥没して、現在のカルデラができた。

 火砕流は谷など地形的に低いところを流れるが、火山灰と火山ガスからなる希薄な部分(火砕サージ)は火砕流の本体から分離し斜面をはいあがったり横方向に広がる性質がある。プレー火山の1902年の噴火や長崎県雲仙普賢岳(うんぜんふげんだけ)の1991年(平成3)の噴火のように、火砕流による犠牲者は火砕流の本体より火砕サージに巻き込まれた場合が多い。

 雲仙普賢岳では1990年から1995年にかけて、成長を続ける溶岩ドームが繰り返して崩壊したために、合計で9000を超える回数の火砕流が発生した。1991年6月3日に発生した火砕流では43名の報道関係者や防災関係者が犠牲になった。三宅(みやけ)島で2000年8月末におきた水蒸気爆発では、低温で勢いのない火砕サージが発生し住宅街を飲み込んだが、幸い犠牲者はでなかった。

[中田節也]

『砂防学会編『火砕流・土石流の実態と対策』(1993・鹿島出版会)』『千木良雅弘著『群発する崩壊――花崗岩と火砕流』(2002・近未来社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「火砕流」の意味・わかりやすい解説

火砕流
かさいりゅう
pyroclastic flow

噴火によって火口から噴出した高温の火山噴出物が,高速で火山体斜面を流下する現象。規模や状況によって,熱雲,軽石流(浮石流),スコリア流,火山灰流などとも呼ばれる。100~700℃に達した高温の岩石の破片が火山ガス,水蒸気,空気と混合する際に内部上昇流が発生するため粘性は低下し,重力の作用によって,ゆるやかな斜面でも時速数十~200kmで流れる。数百km以上の範囲に広がる場合もある。火山災害のなかでも最も大きな被害を出す要因の一つであり,1902年に西インド諸島マルティニーク島のプレー山で発生した火砕流では約 3万人が犠牲になった。日本でも 天明3(1783)年の天明浅間山噴火では火砕流により約 1200人が,1991年6月の普賢岳(→雲仙岳)の噴火による火砕流では 43人が死亡した。大規模な火砕流は,火砕流堆積物が数十mの厚さとなる火砕流台地と呼ばれる地形(→火山地形)を形成することがある。また火口周辺が陥没し,カルデラを形成する。

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百科事典マイペディア 「火砕流」の意味・わかりやすい解説

火砕流【かさいりゅう】

火山砕屑(さいせつ)物流とも。マグマの粘性が大きい場合に起こる火山噴火の型の一つ。火山灰,軽石,火山岩塊などが火山ガスと混合した一団の濃厚なかたまりとなって火口から山腹をなだれおりるもの。この型の噴出で,小規模なものは熱雲となり,大規模なものは軽石流となる。1991年6月3日に雲仙岳(普賢岳)で発生した火砕流では43人の死者・行方不明者を出し,家屋等にも多大な被害が出た。
→関連項目火山灰軽石溶結凝灰岩

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知恵蔵 「火砕流」の解説

火砕流

爆発的な噴火で出たテフラ(火山砕屑〈さいせつ〉物)が、噴霧状に空気と混合し、重力により山腹を流れ下るのが火砕流。粒子をあまり含まない爆風がサージ。火砕流は、熱雲とも呼ばれ、流下速度は時速100kmを超え、到達距離も数十kmに達する例がある。テフラをほとんど含まない熱風(火砕サージ)の部分が先端にあり、地形にあまり拘束されずに移動する。火砕流には、火口から垂直に上がった噴煙の一部が降下するスフリエール型、溶岩ドームの爆発に伴うプレー型、溶岩の崩落過程で生ずるメラピ型がある。大きめのテフラを落とした後、火砕流は軽くなり噴煙として上昇する。水蒸気爆発やマグマ水蒸気爆発に伴う爆風(ベースサージ)は海底噴火の際に海面でよく発生する。

(井田喜明 東京大学名誉教授 / 2007年)

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