地殻を構成している物質を,主として岩石や地層の単位でとらえ,それらの分布状況,相互の関係,変形のようすなどを明らかにするために行う基本的な調査。その結果を地質図としてまとめる作業も含まれる。地殻の構造発達史を明らかにする純学術的な目的や,各種の土木工事の地盤調査,石油その他の有用地下資源の探鉱,開発のための調査などの実践的目的そのほか,地質調査の目的はさまざまである。目的の多様性に応じて,調査の方法と,野外における地表地質調査をはじめとして,物理探査やボーリングなどの特殊な地質調査から,航空機や人工衛星による地質調査や調査船を用いて行う海底地質調査など大がかりなものまで,さまざまである。それらは互いに相補的であり,目的によってはいろいろな方法が複合的に用いられる。なお,地質調査は国の機関である通産省工業技術院の地質調査所が行うほかに,各大学・研究所,また鉱山関係の民間会社などで多様な調査が行われている。
陸上における地質調査は,その目的のいかんにかかわらず,野外における岩石や地層をじかに観察し,記載することからはじめる。調査の途上で必要となれば,岩石や地層などのサンプルを持ち帰り,各種の観察機器,計測機器,分析機器を用いて研究を深める。
未固結の地層や風化の進んだ岩石の地域を調査するときと,もっぱら固結した岩石の地域を調査するとき,あるいは両方を同時に調査するときなど,対象の相違,また山岳地域,丘陵地域,平野部,海岸地域などの調査地域の違いによっても,用具や装備が違ってくる。個人で必ず携帯しなければならない一般的なものは,地形図,ハンマー,クリノメーター,巻尺,折尺,フィールドノートと筆記用具,ルーペ,分度器,サンプル袋,新聞紙,マジックインキ,調査かばん,カメラなどである。
地表地質調査で初めての地域を調査するときは,詳しい本格的な調査(精査)に先立って,調査の方針や計画を立てる目的で概査がなされるのが普通である。概査では,宿泊や交通の事情調査もなされるが,主として,調査地域の岩石や地層がどのようなものであるのか,それらがどのように分布しているのか,露頭の状態はどうかなどについて概要を調査する。さらに,以前に他の調査が行われている場合には,文献に目を通して,研究史を明らかにしておく必要もある。
概査においても精査においても,基本的になされる作業は,観察結果を路線踏査図(ルートマップ)として記載することである。この作業をルートマッピング,あるいは単にマッピングという。概査のマッピングは,調査地域を横切るような道路や河川沿いに,やや粗い精度(2万5000分の1,あるいは5万分の1の地図を原図とする)でなされる。精査の場合は,道路という道路はすべて,河川は支流・枝沢にいたるまでくまなく調査され,精度は一般に3000分の1から5000分の1で,目的によっては1000分の1,ときには100分の1の精度でなされることもある。近年,自治体によっては,精度の高い地形図(3000分の1~5000分の1)をそなえているところもあり,これをマッピングの原図にそのまま使うことができる。精度の高い地形図が入手できない場合でも,航空写真(空中写真)が比較的容易に手に入るので,これから調査ルートをトレーシングペーパーに写しとり,適当な縮尺に書きなおして原図に使うこともできる。ルートマッピングには一般に行われている平板測量の方法が応用される。方位はクリノメーター,クリノコンパス,ブラントンコンパスで,距離は歩測,目測,距離計で測る方法である。高度差は高度計,ときにはハンドレベルによってチェックする。ルートマップに記載する内容は調査の目的によって異なってくる。一般には露頭の位置,地層・岩石の種類(岩相),走向および傾斜,岩石の色や硬さの度合,堆積構造や変形のようす,断層や節理の性質・規模,その他必要と判断されることをできるだけ記載する。
航空機による地質調査法は,航空地質調査法と呼ばれる。調査員が航空機に同乗して広範囲の地表を一望できることから,地質構造や岩質を反映している地形の特徴を,大きく把握できる利点がある。露出の悪い,交通の不便な広大な地域の地質調査の際に,概査の段階で効果的な方法となる。一般には,航空写真がこの目的のために利用される。航空機に磁力計を積みこんで磁力探査を行うこともある。さらに広い範囲を一望できて地質構造や地質系統の予察に貢献できるという点では,ランドサット(LANDSAT)をあげねばなるまい。ランドサットはリモートセンシングの技術を応用した地球観測衛星で,地上約900kmの宇宙から,連続的に185km×185kmの範囲を一望し,その画像データを地上局に送信する。現在,映像データとして,地球資源および環境調査への応用研究のため広く一般に提供されているものは,MSS(multi-spectral scanner)データである。MSSは対物走査方式の映像表示型センサーであり,4バンドの波長の異なる光(緑,赤,近赤外2種)の映像データが同時に同一地域で得られるものである。ランドサット衛星の映像から地質構造を読む試みは多くなされており,特に大構造を予察することにより,従来の調査方法がより効果的に推進できる利点とともに,従来の調査方法では不可能であった広範囲,大規模,さらに長期間連続的な観察などが可能になったために,いわば思いがけない発見がなされる可能性が生じている。今後,映像のみでなく,地球の他の物性についての情報も,同時に記録されるようになることも予想され,人工衛星による地質調査にたいする期待は大きい。
地表の地質構造の調査結果から,地下における岩石や地層(あるいは鉱床)がどのように分布しているか,ある程度の深さまで推定することは可能である。しかしながら,この推定を確かめたり,さらに深いところの状態を推定するためには,他の方法を用いなければならない。
(1)物理探査 いろいろな地球物理学的手法を用いて行う調査方法であり,主として利用する物理量の違いによって方法が異なり,それぞれ,地震探査,重力探査,磁気探査,電気探査,放射能探査,地温探査,物理検層などと呼ばれている。
(a)地震探査 地下の岩石や地層の中を波動として伝搬する弾性波の速度を測定することによって,地下構造を明らかにする調査で,古くから,自然発生地震によって地球の内部構造,とりわけ地殻やマントル上部の構造を明らかにするために用いられてきた方法である。これには岩石や地層の内部で屈折する波動を使う屈折法と,異なる物質の境界面で反射する波動を使う反射法とがある。現在は,波動は,重いおもりを落下させたり,火薬類やガス類をボーリングした孔で爆発させたりして人工的に起こす。海底の調査に用いられる音波探査も地震探査の一種で,これは,水中で発振した音が,海洋底や水底を構成している物質中の物性の異なる境界面(不整合面,地層面,断層面など)で反射・屈折してくるところを受信・解析し,地質構造を調査するものである。
(b)重力探査 地下の物質の分布が水平的に不均等,すなわち密度分布が不均等である場合に現れる地表における重力の場の微妙な影響(異常)を逆に利用して,地表で重力異常を測定し,その異常から,地層や岩石の地質構造を推定したり,石油,天然ガス,石炭などの存在する位置や分布範囲などを推定したりする。測定には,主として重力計が用いられる。測定値を水準面,緯度,地形などにより補正し,等重力線を描き,これに基づいて地下構造などを推定する。
(c)磁気探査(磁力探査) 地表の地球磁場を測定し,等水平磁力線図および等垂直磁力線図を描くことによって,地球磁場の局地的磁気異常を明らかにし,地下構造を解明する。磁鉄鉱鉱床のような強磁性鉱物鉱床が存在する位置やその分布の状態を推定したり,玄武岩や蛇紋岩などが磁性鉱物を比較的多く含む性質を利用して,地下や海底の地質構造を推定するために用いられる。測定は磁力計でなされる。プロトン磁力計は海底地質調査に,ルビジウム磁力計はロケットや人工衛星による絶対測定に用いられている。
(d)電気探査 地層や岩石が,その物理的性質の違いにより電気的に異なった反応を示すという現象を利用して,地下の地層や岩石の分布状態,鉱床の位置や分布状態を推定する。電気探査には多くの方法があるが,よく知られているものに比抵抗法がある。これは地表に電極を接地して地下に人為的に電流を流し,電気伝導度の変化から地下の状態の変化を推定する方法である。自然電位法は,自然の状態において,磁化金属鉱物,黒鉛,硫黄などの鉱体のまわりでは自然電位が生じ,鉱体の上に負の異常が生ずることを利用し,等電位線図を描くことにより,鉱体の位置や分布状態を推定する方法である。さらに,電気検層とよばれる物理検層の一方法がある。これは泥水で満たされているボーリングの孔内に電極を下ろしながら,連続的に比抵抗や自然電位を測定する方法である。
(e)放射能探査 地層や岩石の中の放射性鉱物が出す放射線を地表で検出し,鉱床が存在する位置や分布状態を調査する。ウラン鉱床などの探査に用いられる。また,ボーリング孔内に放射線源と検出器を同時に下ろしながら,放射能の散乱,吸収などの変化を連続的に測定して,岩石や地層の密度や水分を検層する。
(2)化学探査 土壌や坑内水の中の特定の元素を検出し,鉱体の位置,分布などを推定するものである。ある鉱床では,その中心部から離れるにしたがい,岩石や風化土壌の中,地表水や坑内水の中で,特定の元素の含有量が少なくなっていくことが知られている。これを利用して,ある地域に特定の鉱床が存在する可能性がある場合,地表や坑内で調査を行いながら,一定の元素について有機試薬を使って定量的な化学分析を行うことにより,この元素の地表における濃度分布を求め,これをもとに鉱体の位置や分布状態を推定する。
近年,海底の地質調査の進展はめざましく,海底地質調査という独自の調査方法を確立しつつある。海底地質調査では,あらかじめ航路を定め,航路に沿って音響測深器echo sounderで深度を測定し,精密深度記録計(PDR)によって海底地形を描きながら,音波探査で海底下の構造を追跡する。地磁気,重力,地殻熱流量などの測定も同時に行うことができる。適当な測点が選ばれ,停船して岩石や地層の採取がピストンコアラー,ドレッジャー,ボーリングなどによってなされ,問題点を絞って有人潜水艇によって調査することも可能になった。今後の問題として,深海のボーリング孔内に計器を設置して自然の研究室とする計画が提唱されている。
執筆者:原田 哲朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地層や岩体の分布およびそれらの相互関係や地質構造などを知るために行う調査。調査結果は地質図、地質断面図、地質柱状図などで示される。普通は、野外で、ハンマーとクリノメーターを用い、岩石の肉眼観察に基づいて行う地表地質調査をさすが、調査目的、対象、手段、精度などにより、いろいろな種類がある。目的には、研究のための調査、資源探査、土木建設のための基礎地盤調査、防災調査、環境アセスメント調査などがある。対象としては、火山調査、段丘調査、海洋地質調査などが例としてあげられる。手段としては、地表地質調査のほかに、ボーリング調査、リモート・センシング、物理探査(地震探査、重力探査、磁力探査、電気探査など)、地球化学探査などがある。最近は、地下レーダーによる調査も行われるようになった。精度により、概査と精査に分けられる。普通、数百分の1以上の大縮尺地形図を基図として行う調査を精査という。
[岩松 暉]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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