フィッシャー‐トロプシュ法(読み)ふぃっしゃーとろぷしゅほう(その他表記)Fischer-Tropsch synthesis

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

フィッシャー‐トロプシュ法
ふぃっしゃーとろぷしゅほう
Fischer-Tropsch synthesis

一酸化炭素水素から液状炭化水素を合成する方法。1923年にドイツのF・フィッシャーとトロプシュHans Tropsch(1889―1935)が初めて成功した方法で、FT合成法と称されている。第二次世界大戦中にはドイツで工業化され、人造石油工業の一環として九つの工場が操業していた。

 FT合成法には低温FT合成(反応温度180~250℃、反応圧力10~45気圧)と高温FT合成(反応温度330~350℃、反応圧力25気圧)とがあり、製品性状には大きな差異がある。

 低温FT合成は重質油やワックスの収率が高く、さらに接触分解水素化分解等の操作が必要であるが、クリーンディーゼル油等の輸送用燃料が得られる方法である。一方、高温FT合成はガソリンを主製品とし、重質油やワックスの収率を抑える方法である。

 石炭ガス化ガスからの合成液体燃料CTL=coal to liquids)の生産は、実績や規模において南アフリカ共和国のSASOL(サソール)社が世界最大である。低温FT合成法はSASOLⅠにおいて(1955~)、高温FT合成法はSASOLⅡ(1980~)・SASOLⅢ(1982~)において1日当り合計17.5万バレルの生産規模に達している。

 石炭やコークスから製造される水素と一酸化炭素の混合ガス中には触媒被毒する硫黄(いおう)化合物が含まれているため、合成反応の前に精製が必要である。また、その合成反応は大きな発熱反応であり、反応を円滑に進めるために効果的な反応熱の除去を行い、触媒層の温度を正確に調整する必要がある。

 1992年以降、天然ガス原料とする合成液体燃料(GTL=gas to liquids)もSASOL社により生産開始され、低温FT合成により1日当り3万バレル規模で硫黄分の低い軽油の供給を可能にしている。

上田 成・荒牧寿弘]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

フィッシャー=トロプシュ法
フィッシャー=トロプシュほう
Fischer-Tropsch process

1923年 F.フィッシャーと H.トロプシュによって始められた一酸化炭素の水素化による炭化水素合成法。合成ガス ( H2+CO ) を常圧または加圧下で,コバルトを触媒として約 200℃で接触水素化を行うと,主として直鎖パラフィンおよびオレフィンが生成する。また改良法として鉄触媒によるアルコールを目的とするフィッシャー=トロプシュ法も見出されている。第2次世界大戦中は石炭から合成ガスにし,この方法で液体燃料をつくる工場が造られていたが,現在は経済的に成立しないので,ほとんど実施されていない。しかし,石油代替エネルギー開発の必要性から,現在も研究されている。

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世界大百科事典(旧版)内のフィッシャー‐トロプシュ法の言及

【石炭液化】より


[石炭の間接液化]
 石炭をひとまずガス化して一酸化炭素と水素からなる合成ガスに変換したのち,触媒上で反応を行わせて,炭化水素油を合成する方法である。1920年代の初期にドイツのF.フィッシャーとH.トロプシュによってこの原理が発見されたのでフィッシャー=トロプシュ法(F‐T法)あるいは単にフィッシャー法と呼ばれる(フィッシャー合成)。この方法は現在も南アフリカ共和国のサゾール社で工業的規模において実施されているが,生産される液体燃料は主としてパラフィン炭化水素で,ディーゼル軽油としては好適であるが,ガソリン留分はそのままではオクタン価が低い欠点がある。…

【フィッシャー合成】より

…一酸化炭素の水素化反応によって液体の炭化水素燃料を合成する方法。1920年代の初め,ドイツのF.フィッシャーとトロプシュHans Tropsch(1889‐1935)によって発明されたので,F‐T合成法(フィッシャー=トロプシュ法)とも呼ばれる。石炭をガス化して一酸化炭素と水素からなる合成ガスに変えたのち,この方法で液体燃料を合成することができるので,石炭の間接液化法として位置づけることができる。…

※「フィッシャー‐トロプシュ法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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