石油の重質留分を触媒を用いて分解し,高オクタン価ガソリンを増産するプロセスをいう。接触分解法の原理は,1923年にフランスのウドリーE.J.Houdryによって発見された。すなわち,彼は天然産の白土を硫酸やアルカリを用いて活性化した触媒(活性白土)上に加熱した石油系重質油を通ずると分解反応がおこり,ガソリンが得られることを見いだした。このガソリンは当時広く工業的に実施されていた熱分解法のガソリンよりも,臭気が少なく,安定性がすぐれ,オクタン価も高いなどの利点が認められた。このため,ガソリン需要の旺盛であったアメリカの石油会社の注目するところとなった。ウドリーの研究を発展させたサン・オイル社は,1936年に固定床式工業装置を,またソコニ・バキューム・オイル社は43年に移動床式工業装置をそれぞれ建設した。しかし現在は,第2次大戦を契機としてアメリカの石油会社が共同開発した流動床式接触分解(fluid catalytic cracking,略称FCC)装置がもっぱら使われている。この分解装置は直径数十μmの微粒子の触媒を用い,流動状態にある反応器内でほぼ常圧下,500℃前後で分解反応を行う。分解反応に伴って触媒上に炭素状析出物が蓄積して,その分解活性が低下するので,これを触媒再生器に移行させ,ここで空気を吹き込み炭素状析出物を燃焼により除き,再生された高温の触媒を反応器へ循環させて,再び分解反応を行う。
反応器形式の変遷とともに,触媒にも大きな進歩があった。初めは活性白土が使われ,やがて合成シリカ-アルミナ触媒が開発され長い間使われたが,1960年代に入ってゼオライト系触媒が発明され,そのすぐれた活性と選択性のために急速に普及して現在に至っている。この接触分解触媒は,ホージャサイトと呼ばれるゼオライト(沸石)のナトリウムイオンを陽子,アルカリ土類金属イオン,あるいは希土類元素イオンなどで交換したものを,合成シリカ-アルミナに10~20%添加して調製される。この触媒は分解活性がきわめて高いだけでなく,ガソリンの生成選択性が高く,ガスや炭素状析出物の生成が少ないというすぐれた性質をもっている。
接触分解ガソリンの収率は,原料油や触媒の種類,反応条件などによって異なるが,減圧軽油を原料とすると50~70%で,そのオクタン価(リサーチ法)は80~90である。このほかLPGや軽油が副産される。最近は重質の原料油を,減圧蒸留してアスファルト分を除くことなく,直接に接触分解装置にかける方法が検討され,これに伴う技術的課題が研究されている。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義には,一般に触媒を用いる分解反応をいうが,狭義には,石油の重質留分をゼオライトなどの固体酸触媒を用いてクラッキングし,高オクタン価ガソリンを製造する反応および操作をいう.通常の熱分解はラジカル反応であるのに対し,接触分解はカルベニウムイオン反応で,生成物は分枝アルカン,分枝アルケンに富み,また芳香族炭化水素も比較的多い.このため,熱分解法に比べてはるかに生成ガソリンのオクタン価が高く,一般に接触分解ガソリンのオクタン価は90以上である.工業的操作としては,常圧気相で約500 ℃ 前後で行われ,粉末状の流動触媒を用いる流動層式と,粒状触媒を用いる移動層式とがある.流動層式が主力で,わが国では各種の流動層方式が採用されている.触媒としては,従来,シリカ-アルミナ触媒が主体であったが,現在ではゼオライト触媒が用いられ,後者のほうがガソリン収率が高く,ガス化損失が少ない.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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