改訂新版 世界大百科事典 「ヘブル人への手紙」の意味・わかりやすい解説
ヘブル人への手紙 (ヘブルびとへのてがみ)
Letter to the Hebrews
新約聖書中の一書。著者不明。手紙と呼ばれてはいるが,それにふさわしい書出しの挨拶はみられず,最後の部分のみがかろうじてそれらしい形式を整えているにすぎない。したがって本書は手紙というよりも説教(集)といったほうがふさわしい。神学的内容はパウロの手紙やヨハネ文書とも異なり,独特な主張がみられる。キリストを大祭司として描いていることなどはその代表的なものである。しかしただ大祭司キリスト論を展開しているのではなく,このキリストを先導者として天の聖所に向かって前進する群れとしてのキリスト者の姿を,勧告の形で描いており,ここにかなりの重きを置いている。このような特色をアレクサンドリアのフィロンやグノーシス主義の影響として説明しようとする試みがなされているが,いずれも十分なものとは言えない。後80-95年ころ,おそらくローマの教会にあてられた,きわめて文学的価値の高い文書である。
執筆者:川村 輝典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報