フィロン(読み)ふぃろん(英語表記)Philon ho Larissaios

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィロン」の意味・わかりやすい解説

フィロン(古代ギリシアの哲学者)
ふぃろん
Philon ho Larissaios
(前160/159―前80ころ)

ラリサ出身の古代ギリシアの懐疑派哲学者。クレイトマコスKleitomachos(前187/186―前110/109)に学び、その後を継承してキケロなど多くの弟子を集めて、約21年間新アカデメイアを指導した。真理が実在することを確信することでカルネアデスから離れ、カルネアデスの新(第三)アカデメイアに対して、第四アカデメイアといわれることがある。またカルネアデスの「もっともらしく信じられること」に対して「明瞭(めいりょう)さ」を提出した。フィロンは、アルケシラオスやカルネアデスも含んでアカデメイアはプラトン伝統から外れていないと考えたが、あくまで真理の人間による把握不可能性を強調することで、弟子のアンティオコスの第五アカデメイアと区別される。フィロン以降アカデメイアは衰退の途をたどった。

[山本 巍 2015年1月20日]


フィロン(ユダヤ人哲学者)
ふぃろん
Philon
(前20ころ―後50ころ)

ユダヤ人哲学者。彼の家庭はローマ皇帝親交があり、ユダヤ王家と姻戚(いんせき)関係にあった。紀元後38年のアレクサンドリアのユダヤ人大迫害ののち、彼はユダヤ人の政治的権利を弁護するために、使節団長としてローマカリグラ帝のもとに派遣された。著作の大部分モーセ五書注解であり、寓意(ぐうい)的方法を用いて文字の背後にある哲学的意味を探ろうとした。プラトンのイデア論、ストア哲学のロゴス論の多大な影響を受けたが、彼の思想の基本はユダヤ教信仰である。人間の至福は魂が神をみることにあるが、神の一方的な恵みだけがそれを可能にすると説いた。彼のロゴス(神と世界との媒介者)の思想はキリスト教教父に大きな影響を与えた。

[梅本直人 2018年4月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フィロン」の意味・わかりやすい解説

フィロン[アレクサンドリア]
Philōn of Alexandria

[生]前15頃.アレクサンドリア
[没]後45頃.アレクサンドリア
ユダヤ哲学者。ユダヤのフィロン Philon Judaeusともいう。ヘレニズム時代のユダヤ哲学の代表的存在。最初の神学者と称される。富裕の名門に生まれ,カリグラ帝の頃のローマを訪れ,ユダヤ人の皇帝礼拝義務免除請願のため帝に謁見したほかは,生地で過ごした。彼の方法はいわゆる折衷主義的で,プラトンやストア派などのギリシア哲学の教養を基礎として旧約聖書の寓意的解釈を行なうものであり,ユダヤ神学とキリスト教,宗教と哲学,信仰と理性の一つの典型的な結合が彼によって果たされ,のちの新プラトン主義への道を開いた。主著『問題と解決』 Zētēmata kai luseis,『神聖なる律法の寓意的解釈』 Nomōn hierōn allēgoriai。

フィロン[ラリッサ]
Philōn of Larissa

[生]前160頃.テッサリア,ラリッサ
[没]前80頃.ローマ
ギリシアの哲学者。ラリッサでカルネアデスの弟子カリクレスに学んだのち,アテネに出てクレイトマコスに師事,師のあとをうけてアカデメイアの学頭となった。ミトラダテス戦争のためローマヘ逃れ,修辞学の教師となってカツルス父子やキケロを教えた。アルケシラオスやカルネアデスの懐疑論を継承,ストア派のファンタシア・カタレプティケに対して,倫理上の問題については蓋然性の規準を認めつつも,認識の問題においては「確実なる知識の不可能性」の原理を主張し,弟子のアスカロンのアンチオコスに批判された。

フィロン[アテネ]
Philōn of Athens

前3世紀頃在世の古代ギリシアの哲学者。ピュロンの弟子。古懐疑派に属し,ホメロスを好み,『イリアス』のなかの人生の無常を歌った部分を,常に繰返していたと伝えられる。彼は人生の終局目的をアタラクシア (心の平静) に見出していた。

フィロン[ユダヤ]

「フィロン[アレクサンドリア]」のページをご覧ください。

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