イギリスのロック歌手。1970年代前半に興隆したグラム・ロック(きらびやかに着飾ったミュージシャンによる退廃的な雰囲気を強調したロック)の旗手として一世を風靡したが、グラム・ロック・ブームが終わった後も、音づくり、外見ともに次々と変容を繰り返しながら、ミュージシャン、パフォーマーとしての独自のポジションを確立した。三十数年にわたるキャリアを通じて、カメレオンのように変幻自在にキャラクターを演じ分けることにこそ彼のアイデンティティがあった。
ロンドンで、デビッド・ロバート・ジョーンズDavid Robert Jonesとして誕生。1950年代のスキッフル(ギターなど簡素な楽器編成で、アメリカン・フォークソングを強烈なビートで演奏したイギリス独自の音楽)・ブームやエルビス・プレスリーに影響されてギターを弾き始め、またチャーリー・パーカーに憧れてサックスも演奏するようになった。そして、1962年、15歳で最初のバンドを結成してから1966年春ごろまでにキング・ビーズ、マニッシュ・ボーイズ、ロウアー・サード、バズといったバンドを次々につくっては解散し、その間数枚のシングルをリリースしたものの、まったく評判にならなかった。
デビッド・ボウイと改名したころにボブ・ディランのライブを観て感銘を受け、ソロに転向。1966年にソロとしての初シングル「ドゥ・エニシング・ユー・セイ」をEMI傘下のパイ・レーベルから発表し、さらにデラムに移籍して1967年に初ソロ・アルバム『ラブ・ユー・ティル・チューズデイ』をリリースするが、これもほとんど話題にならなかった。しかしそんなころ、舞踊家/パントマイム・アーティストのリンゼイ・ケンプLindsay Kemp(1938―2018)に出会い、弟子入り、演劇も含むパフォーマンス全般について学び、ミュージシャンとしての表現の幅を広げてゆく。こうした経験の蓄積が最初に開花したのが、1969年、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』にヒントを得て書かれた初のヒット曲(全英チャート5位)「スペース・オディティ」であり、同年、この曲を含むアルバム『デビッド・ボウイ』(後に『スペース・オディティ』Space Oddityとタイトルが変えられた)もリリース、ようやく音楽シーンでその才能が認められた。
1970年代に入ると、T・レックスによって引き起こされたグラム・ロック・ムーブメントとシンクロナイズする形で、ボウイの表現もますます妖艶さを際立たせるようになり、人気も急上昇、『ハンキー・ドリー』(1971)、『ジギー・スターダスト』(1972)、『アラジン・セイン』(1973)といったヒット・アルバムを連発。とりわけ、SF的ストーリーを軸にしたコンセプト・アルバム『ジギー・スターダスト』は、グラム・ロックとしてのみならず、ロックの歴史に残る傑作として高く評価されている。
その後も、黒人音楽に接近した『ヤング・アメリカン』(1975)や『ステーション・トゥ・ステーション』(1976)、ブライアン・イーノを制作スタッフに迎えてプログレッシブ・ロック的な重厚な世界を展開した『ロウ』(1977)と『ヒーローズ』(1977)、パンク/ニュー・ウェーブ的ニュアンスの強い『スケアリー・モンスターズ』(1980)、1980年代ならではの黒人的ビート感とデジタル感を強調した『レッツ・ダンス』(1983)等々、時代の趨勢をみきわめながら、半歩先を行くヒット作をリリースした。
同時に1970年代末期からは俳優としても活躍し、『ジャスト・ア・ジゴロ』(1978)、『ハンガー』『戦場のメリー・クリスマス』(ともに1983)、『ビギナーズ』(1986)、『ラビリンス~魔王の迷宮』(1986)といった映画、あるいはブロードウェー劇『エレファント・マン』やドラマ『バール』などに出演、総合的パフォーマーとしての人気と地位を不動のものとした。
1980年代末期から1990年代前半にかけては、ロックン・ロールの原初的パワーを取り戻そうと、突然ティン・マシーンというロック・バンドを始動させファンを驚かせたが、商業的には不発だった。同時に、音楽的な焦点がはっきりしないアルバムが続くなどアーティスト・パワーにも翳りが見え始めたが、1990年代後半あたりから徐々に復活し、2002年に出たソロ・アルバム『ヒーザン』は久々に大きな話題となった。
[松山晋也]
『アンジェラ・ボウイ、パトリック・カー著、豊岡真美訳『哀しみのアンジー』(1993・大栄出版)』
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