日本大百科全書(ニッポニカ) 「マイクロ波分光学」の意味・わかりやすい解説
マイクロ波分光学
まいくろはぶんこうがく
microwave spectroscopy
光による分光学に対応して、人工的に発振させた電波を用いる分光学を電波分光学といい、とくに波長がセンチメートルあるいはそれ以下の電波(マイクロ波)による分光学をマイクロ波分光学という。マイクロ波は第二次世界大戦中のレーダーの開発に伴って進歩したもので、戦後この分野の研究が広範囲にわたって盛んに行われた。二つのエネルギーレベル間にマイクロ波を吸収して転移がおこる場合はすべてこの分光学の対象となる。その主たる分野の一つは電子スピン共鳴である。もう一つの大きい分野はマイクロ波分子分光学である。たとえば対称軸をもつ分子において、その軸の周りの分子回転のエネルギーは(h2/8π2I)・J(J+1)(hはプランク定数、Iはこの回転軸の周りの分子の慣性モーメント、Jは回転の量子数でゼロまたは正の整数)で与えられるから、とくに水素のような軽い分子を除いて、Jの一つ異なるレベル間のエネルギー差はマイクロ波の光子に対応する。したがってマイクロ波の吸収を測定して分子回転を解明することができる。さらにアンモニア分子などにおける反転スペクトルもマイクロ波の領域に入るので、回転のみならずより広く分子の性質を明らかにするのに役だっている。反転スペクトルの研究からレーザーの前駆としてメーザーが開発された。このメーザー、レーザーの研究によって、アメリカのタウンズとロシアのバソフ、プロホロフの3名に1964年にノーベル物理学賞が授与された。
[伊藤順吉]