日本大百科全書(ニッポニカ) 「なまはげ」の意味・わかりやすい解説
なまはげ
秋田県男鹿(おが)半島の村々の小(こ)正月行事。国の重要無形民俗文化財。また「来訪神:仮面・仮装の神々」を構成する行事の一つ(「男鹿のナマハゲ」)として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産にも登録されている。仮装した若者が旧暦1月15日の満月の光を浴びて、雪を踏んで家々を訪れた。第二次世界大戦中は中止されたが、戦後復活し、観光行事として著名になった。大晦日(おおみそか)の晩や新暦1月15日に行うものが多くなった。ざるでつくった鬼面をかぶり、腰蓑(こしみの)風のものを巻き付け、大きな藁沓(わらぐつ)を履いて鬼に仮装し、木製の包丁、金棒、鍬(くわ)を持ったり、箱の中に小さな物を入れてからから鳴らしながら家々を訪れる。鬼の数は村によって違うが、夫婦2匹、子鬼が入って3匹、青鬼夫婦を加えて5匹の例もある。なまはげが入口で「うおーうおー」と奇声をあげると、家の主人は羽織袴(はかま)で迎え入れ、酒や餅(もち)でもてなす。その間なまはげは、泣く子はいないか、親の言いつけを守らぬ子はいないか、怠け者はいないか、などとわめき散らし、子供を震え上がらせる。親が子供にかわって謝ってやったりする。なまはげが小正月に訪れ来ること、仮面や蓑をつけた神人の姿をとっていること、家に入ってまず神棚を拝み足を踏み鳴らすこと、家の主人が正装で迎えてもてなすことなどをみても、単なる即興的な行事でないことは明らかである。同類の行事は青森県から沖縄に至る各地にあって、年の境に遠来の神が人間に祝福を与えるために来臨する形を示すものである。ただ多くの地方では祝福のことばと引き換えに、餅や銭をもらい歩く物もらいのような形に零落した例が多いだけである。なまはげの呼称については、青森県でシカタハギ、岩手県でナモミタクリ、ヒカタタクリ、ナゴミタクリ、スネカタクリ、ヒガタタクリ、秋田県でヒガタタクリ、ナモミハギ、ナマハギ、石川県でアマメハギ、アマミハギなどという。炉端で火にあたってばかりいるとできる皮膚の火斑(ひだこ)をナモミ、アマメなどとよんだもので、怠け者を戒めるために鬼がくるのだと説明している。西のほうではホトホト、コトコトなど訪問の物音をこの行事の名称にしたものが多い。
[井之口章次]