イスラムの法学者。イランのマーワルドに生まれる。スンニー派の法学者で、シャーフィイー学派に属する。アッバース朝カリフの支配力が弱まり、各地の太守が実質上の政治的支配者として台頭してくる時代に、バグダードの大法官として活躍した。イスラム共同体の統一の回復と社会正義の実現を目ざして特色のある政治論を展開した。在世中には著作を発表しなかったといわれているが、その主著『支配の原理』において、選挙によるカリフ制やカリフの社会に対する責任制、独裁に対する法治主義制度の確立の必要性などが説かれている。彼の政治思想は現代イスラム世界にも強い影響力を及ぼしている。
[松本耿郎 2018年4月18日]
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…また彼らが征服した土地でそのまま総督となった場合にも,ひきつづきアミールと呼ばれ,カリフに代わってその地を統治した。このような,総督としてのアミールの任務として,10~11世紀の法学者マーワルディーは,(1)軍隊の整備とその給与の支給,(2)カーディー(裁判官)の任命,(3)ハラージュ,サダカ両税の徴収,(4)イスラムの擁護,(5)刑罰を科すること,(6)金曜日の集団礼拝の指導,(7)メッカ巡礼者の保護,(8)ジハード(聖戦)の遂行の8項目をあげている。このうち(7)の任務は,独立して特別にアミール・ハッジュ(巡礼のアミール)と称されることがある。…
…このような現実の変化に対応して,ウラマーも国家の事実上の支配者である君主の存在を容認せざるを得なかった。たとえばマーワルディーは,支配者がシャリーアに従って政治を行うならば,カリフは王権に合法性を与えるべきであるとし,またガザーリーは,共同体の秩序維持にあたるスルタンを,カリフは無条件で承認すべきであると主張した。のちには妥協と追認のカリフ論を批判するイブン・タイミーヤのような思想家も現れたが,大方のウラマーは現実に対して次々と譲歩を重ね,ついにはイブン・ジャマーアのように暴君の容認にまでいたったのである。…
※「マーワルディー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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