ミニ移植、および新たな造血幹細胞移植術

内科学 第10版 の解説

ミニ移植、および新たな造血幹細胞移植術(造血幹細胞移植術)

(1)ミニ移植
 「ミニ移植」は非骨髄破壊的(non-myeloablative)な前処置,あるいは強度を減弱した(reduced-intensity)前処置を用いる同種移植通称であり,患者が高齢や臓器障害を有する場合に,標準的強度の前処置を用いると移植関連死亡が高くなるため本法が適応となることが多い.一般的な定義として,造血幹細胞を移植しなくても自己の造血回復が期待できる程度の前処置を用いる場合は「ミニ移植」とされる.「ミニ移植」では移植細胞を生着させるための免疫抑制がおもな前処置の目的であり,抗腫瘍効果は「標準的前処置」の場合ほどは期待されない.また,移植後にドナーとレシピエント由来の細胞が混在する状態(混合キメラ)が生じることがあり,そのような場合はドナーの末梢血から採取したリンパ球の追加投与を行うことによって,より確実なドナー細胞の生着を促す場合がある.「ミニ移植」数は近年,急激な増加を示しており,慢性骨髄性白血病や低悪性度リンパ腫など移植片対腫瘍(GVT:graft versus tumor)効果が得られやすい疾患では比較的,その効果が期待されている.一方で,非特異的な免疫反応に頼るため,標準強度の前処置を用いた場合に比べ抗腫瘍効果には一定の限界がある.
(2)HLA半合致移植
 骨髄移植の普及は患者とドナー間のHLAを一致させることの重要性が明らかになった後,急速に進み,一般的にはHLA1抗原不適合までがドナーとして許容される.一方で,2抗原以上不適合の血縁ドナーからも移植が行われるようになり,特に親から遺伝するHLAハプロタイプの片方が一致するが他方が不一致である血縁ドナーからの移植(HLA半合致移植)が,HLA適合ドナーが得られない患者に対する方法として行われている.1990年代の後半から欧州で始まったHLA半合致移植では,G-CSFにより動員されたドナー末梢血単核細胞からCD34陽性分画に純化した造血幹細胞が用いられることが多い.この方法では移植直後のT細胞の回復は不良であるが,NK細胞が抗腫瘍効果を担い,特に急性骨髄性白血病の場合はキラー活性抑制シグナルを伝える受容体(killer cell immunoglobulin-like receptor:KIR)が不適合であるドナーからの移植により移植片対白血病(graft versus leukemia:GVL)効果が得られ,有意に再発率の減少および生存率の向上が得られることが明らかにされた.一方で,体外で細胞処理が必要となる煩雑さと,移植後の感染症と原疾患の再発が高率であることが依然として問題である.
 最近では,強力な免疫抑制療法とともにHLA半合致ドナーの骨髄を用いる方法も試みられているが,わが国では一部の施設で試験的に行われている段階であり,一般医療としての普及までには至っていない.
(3)臍帯血移植における成績向上および適応拡大を目指した試み
 臍帯血移植では,確実な生着および造血回復の促進が最大の課題となっており,これまでも移植法の改良が試みられてきた.これまで,欧米を中心として2つの臍帯血ユニットを用いて移植する複数臍帯血移植,造血幹細胞を直接骨髄内に投与する骨髄内臍帯血移植,臍帯血細胞と同時に第三者の末梢血造血幹細胞を大量に投与する方法,notchシグナルの刺激などの方法を用いて臍帯血を増幅させて移植する方法,などが試みられている.複数臍帯血移植は欧米で一般的に行われているが,単一ユニットを用いる場合と比較して生着・回復促進に明らかな効果が得られているわけではなく,それ以外の方法もいまだ一部の施設で臨床試験として行われている段階である.
 また,通常の前処置では移植関連死亡の可能性が高い高齢者や臓器障害をもつ患者に対してミニ移植/減弱強度の前処置を用いた移植(reduced intensity stem cell transplantation:RIST)が臍帯血移植でも応用されており,生着不全後の再移植例や再生不良性貧血患者など非腫瘍性疾患に対しても行われている.[高橋 聡]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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