日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミブヨモギ」の意味・わかりやすい解説
ミブヨモギ
みぶよもぎ / 壬生艾
[学] Artemisia maritima L.
キク科(APG分類:キク科)ヨモギ属の多年草。ヨーロッパの沿海地および内陸の含塩土壌地に分布する。日本で種子による栽培に成功したのは1929年(昭和4)のことで、場所は京都市壬生(みぶ)町の日本新薬株式会社の試験場であった。その後、北海道で大規模な栽培が行われ、日本のもっとも重要なサントニン(駆虫薬)資源となった。ミブヨモギの名は、この栽培成功を記念してつけられたものである。植物体の茎は高さ1メートルに達し、茎の下部は木化する。小枝は横に開いて伸びるが、先が下垂する傾向をもつ。全体に軟らかい白毛を密生するので銀白色を呈する。葉は互生し、2回羽状に分裂する。裂片は線形で、最終裂片の幅は1ミリである。夏に茎と枝の先に頭花を総状花序状につける。頭花は数個の総包片に包まれた頭状花序で、その中に7個内外の管状花がある。
つぼみのついたころに地上部を刈り取ってサントニンを抽出し(含量0.3~0.6%)、回虫駆除薬として用いる。つぼみには1.0~3.0%のサントニンが含まれる。ヨモギ属のうち、サントニンを含有する種類はセリフィディウム節に属するものに限られている。現在、ヨモギ属は世界で二十余種が知られているが、工業的にサントニン製造原料として用いてきたのはミブヨモギのほかにセメンシナA. cina (Berg) Willkomm.、クラムヨモギA. kurramensis Qazilbashの2種がある。サントニンを内服すると、人体は紫視あるいは黄視をおこすが、これは一過性である。一方、回虫は頭部神経中枢を侵されて運動をやめ、先端から腹側面に巻いた状態で腸の蠕動(ぜんどう)によって体外に排泄(はいせつ)される。
[長沢元夫 2022年4月19日]