日本大百科全書(ニッポニカ) 「メトロポリタン美術館」の意味・わかりやすい解説
メトロポリタン美術館
めとろぽりたんびじゅつかん
Metropolitan Museum of Art
ニューヨークにあるアメリカ随一、世界最大級の美術館。1870年、市の有力者たちによって創立され、80年、セントラル・パーク東側の一画を占める現在地に移る。この公園の設計者C・ボークスCalvert Vaux(1824―95)によってデザインされたゴシック・リバイバルの建物に、十数回にわたる増改築が行われて現在に至っている。五番街に面したイタリア・ルネサンス様式の正面玄関が完成したのは1926年のことである。この美術館は評議委員会の運営する私設の非営利法人であり、市が建物の維持と警備の費用を負担している。収蔵品は収集家たちの寄贈、潤沢な資金による購入、探検隊の派遣でもたらされた考古遺品などで構成され、その数は330万点にのぼる。エジプト、ギリシア・ローマ、イスラム、中世美術や、ヨーロッパ絵画、アメリカ絵画・彫刻、オセアニア・アフリカ美術、工芸、服飾、楽器、写真・素描・版画、武具・甲冑(かっちゅう)など19部門に分けて管理・展示されている。創立100年を記念して、アスワン・ハイ・ダムの建設で水没の運命にあったデンドゥール神殿がそっくり移築されており、また同時期に完成したアメリカン・ウィングには、この国ならではの豊富なアメリカ美術のコレクションが、時代や地域によって各部屋に一定の様式で再現されている。ヨーロッパ絵画は印象派以降がとくに充実している。また、1987年には20世紀美術(1999年に現代美術と改称)展示棟、1995年にはテキスタイル・センターが開設され、98年には中国・韓国・インド・日本などのアジア美術が整備され、美術館の拡張がなおも進められている。
中世美術は、本館に展示されると同時に、マンハッタン北部のフォート・トライヨン公園内の、フランスの修道院の遺構を移した別館「クロイスターズ」(1938開設)に展示されて、中世を空間ともども追体験できるくふうがなされている。ここには7枚組の有名なタペストリー『一角獣狩り』がある。
[湊 典子・吉川節子]
『友部直編『世界の博物館3 メトロポリタン博物館』(1979・講談社)』▽『T・ホーヴィング著、田中靖訳『謎の十字架――メトロポリタン美術館はいかにして秘宝を得たか』(1986・文芸春秋)』▽『メトロポリタン美術館編『メトロポリタン美術全集』全12巻、別巻(1986~92・福武書店)』▽『メトロポリタン美術館編『メトロポリタン美術館ガイド』(1993・同朋舎出版)』▽『J・リチャードソン著、中野吉郎・森千花訳『やさしいメトロポリタン美術館ガイド』(1994・ほるぷ教育開発研究所)』▽『中繋雅子・笠原知子編『メトロポリタン美術館の至宝』(1998・ミュージアム図書)』