ドイツ出身のフランドルの画家。Memlingとも綴る。フランクフルト近郊ゼーリゲンシュタットSeligenstadtに生まれたが,1465年ブリュージュの市民となる。ブリュッセルのファン・デル・ウェイデンの工房で働き,その影響をうける。師の死後ブリュージュに戻り,生涯同地に定住する。67年同市の画家組合に登録。同市の市長や名士とその家族が敬虔な寄進者としてひざまずき礼拝している宗教画を多く制作した。その名声は遠く外国にも届き,各地から注文が殺到した。様式には年代ごとの発展はあまりなく,その画面は一貫して甘美で,詩的かつ神秘的な雰囲気が漂い,明るく輝くような色彩を見せ,描かれた人物像は個性表現は強くなく静観的な姿勢で理想化されている。それは〈アンダハツビルトAndachtsbild(祈念像)〉形式の宗教画を求める市民の要請に十分呼応するものであった。代表作《ウルスラの殉教》(聖遺物箱に描かれた)をはじめ多くの作品は,今日ブリュージュのメムリンク美術館(オピタル・サン・ジャン)に所蔵されている。
執筆者:森 洋子
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フランドルの画家。ドイツのゼーリゲンシュタットに生まれ、ブリュッヘで没した。同地に定住したのは1465年以降とされる。初期にはケルン派の影響を受けたと推定されるが、のち15世紀フランドルの画家たち、とくにワイデン、ボウツ、グースの画風を継ぎ、とくに新要素を加えることなくこれを総合した。彼は調和と秩序の感覚に優れ、劇的な緊張や鋭い性格描写には欠けるが、温かい色調と完成された技術で精神性と詩情あふれる画面をつくりだした。人物・肖像画の作品が多いが、それらの背景に風景の断片を配置しているのは彼の新趣向で、これはイタリア絵画の影響によるものと推測されている。代表作にはグダニスクの聖母教会の祭壇画『最後の審判』、ブリュッヘの聖ヨハネ病院内メムリンク美術館の『聖カタリナの神秘の婚姻』『聖ウルスラの聖遺物箱』、フィレンツェのウフィツィ美術館の『聖ベネディクト像』がある。
[野村太郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…カンピンの弟子と推定されるブリュッセルのR.ファン・デル・ウェイデンは,中世美術の宗教的力を新しい写実主義と結びつけ,主の〈受難〉を悲しむ人々の憔悴ぶりや頰を伝う涙などをありありと描いて,劇的表現力に満ちた作品を生み出した。15世紀後半に目を移すと,代表的画家のうち人物の心理的把握に優れたH.ファン・デル・フースは地元ヘントの出身であるが,ルーバンで活動したD.バウツは北部のハールレム出身,偉大な先人たちの作風を繊細甘美で親しみやすいものへと大衆化したブリュージュのH.メムリンクは元来ドイツ人である。初期フランドル絵画の卓越した伝統の吸引力と同化力がうかがわれる。…
※「メムリンク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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