改訂新版 世界大百科事典 「メリヨン」の意味・わかりやすい解説
メリヨン
Charles Meryon
生没年:1821-68
フランスの銅版画家。パリに生まれ,16歳で海軍兵学校に入学,以後航海士として世界を周遊。1847年下船してパリに戻り,版画家ブレリにエッチングを学ぶ。ゼーマンZeeman(1623ころ-67ころ)の版画の模写を通してパリと海洋という終生のテーマをつかむ。《プティ・ポン》(1850)を嚆矢(こうし)として,54年までに《屍体公示所(モルグ)》などから成るシリーズ《パリ風景のエッチング》(22枚組,うち番号入り12枚)を刊行,ナポレオン3世下の改造により消え去ろうとする古いパリの町並みを,精密で堅固な描線によって描き留めた。58年精神病患者としてシャラントンの精神病院に最初の監禁後,彼の版画は夢と狂気の映像を露呈し,さらにそれを隠ぺいする修正が執拗に繰り返される(《アンリ4世中学》(1864))。しかし彼の芸術は必ずしも狂気だけの産物ではない。明晰な光によって浮彫にされた橋や塔や教会は,威厳と詩情をたたえている。ユゴー,ボードレールの称賛を得た。
執筆者:小勝 礼子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報