レオナルド・ダ・ビンチの代表作。イタリア盛期ルネサンス様式の一頂点をなすばかりでなく,西洋古典絵画のシンボルともみなされる。縦77cm×横53cm,板に油彩。ルーブル美術館蔵。制作年は不詳であるが1503-10年ころと推定される。画面前景には,胸壁の前に,黒い服とベールをまとった半身の若い婦人(中年とも見える)がやや斜向きで肘(ひじ)掛けいすにすわり,その中性的な表情には多義的で謎めいた微笑がたたえられている。背景には,無限の奥行きを感じさせる想像的な山岳風景が,レオナルド特有の微妙きわまりないスフマート(ぼかし)の技法で描かれている。モナ・リザ(〈モナ〉は貴婦人の敬称)の呼称は,この絵のモデルがフィレンツェの貴族フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻リザであるとするバザーリの記述に基づく(このため〈ラ・ジョコンダLa Gioconda〉とも呼ばれる)。モデルについては種々の異説(イザベラ・デステ説,コスタンツァ・ダバロス説,女装の男性説など)があるが,この神秘的な女性のイメージが単なる肖像=個別像でないことは明らかである。つまり,ここでは,個別的特性は限りなく捨象・超越され,あるいは複合化・重層化されて,新しい生命的イコンともいうべき普遍的女性像が生み出されているといえる。レオナルドはこの作品を最後まで手離さず,晩年を過ごしたフランスのクルー城に携行したと伝えられる。彼の死後,フランソア1世(フォンテンブロー宮殿)の所有になり,ベルサイユ宮殿などを経て1804年にルーブル宮殿に入った。1911年に盗難にあうが,2年後イタリアで無事に発見される。海外不出であったが,1963年にアメリカで,74年に日本で展覧された。
執筆者:森田 義之
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ルネサンス美術の巨匠レオナルド・ダ・ビンチの代表的肖像画。1503年から1506年ごろ制作されたが未完成。晩年、彼がフランスへ招かれたとき持参し、フランソア1世によって1万2000フランで買い取られた。1805年以来、パリのルーブル美術館に所蔵されて現在に至る。油彩、ポプラ板、縦77センチメートル、横53センチメートル。保存状態はあまりよいとはいえず、ことに画面左右の柱は両端が7センチメートルほど切り落とされた。別名『ラ・ジョコンダ』といわれるこの絵の通称は、フィレンツェのフランチェスコ・デル・ジョコンドに嫁したリザ・ゲラルディニ(1479年生まれ)を描いたとするバザーリの記述に由来する。しかしモデルにはほかにジュリアーノ・デ・メディチの愛人説、マントバ侯妃イザベラ・デステとか、変身自画像などの諸説がある。その謎(なぞ)めいた女性の微笑は、古くから聖と俗の両極的な評価さえ生んだ。15世紀の真横を向いた肖像に対し、黒衣の婦人は上体と顔を斜めにした斬新(ざんしん)な姿勢をとる。穏やかな視線と内省的な表情、豊かな胸や両手のしぐさには、人間が宿す奥深い知性と感性、そして不思議な官能の表現がみられる。また背後には高楼からアルプスを遠望するような湿潤な山岳風景が展開する。この東洋思想との交流をしのばせる超現実的な自然観と深遠な人間観との和合は、あたかもレオナルドの全芸術と創造精神を集約しているといえよう。時代を超えた世界の名画たるゆえんである。1911年に一度盗難にあったが、さいわい1913年の暮れに返却された。なお、この作品は1974年(昭和49)4月20日から6月10日まで、東京国立博物館で特別展示された。
[上平 貢]
『中山公男著『モナ・リザ――永遠の女性の謎』(1974・中央公論社)』
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レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作で「ラ・ジョコンダ」と別称される女性の肖像画。1503~05年制作。スフマート(ぼかし技法)を用いた幽玄な山河風景を背景に,謎めいた微笑をたたえた半身像の女性が座す。モデルについては諸説あるが,注文肖像画ではなく普遍的女性像ともされ,彼の肖像画の極致を示す。
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…その他おびただしい数の象牙彫刻小品がアッシリアの各都市から出土している。最も有名なものは,ニムルドから出た女性の面(通称《モナ・リザ》,前8世紀末)であろう。これら後期アッシリア時代の美術品は,19世紀になって初めてヨーロッパ人に知られることとなり,大きな驚きの念を喚起した。…
…またこの両作はマニエリスムの発生に多大の刺激を与えた。同じころ,《モナ・リザ》および失われた《レダ》を描いた(《モナ・リザ》には異説あり)。この《モナ・リザ》についてバザーリは,フィレンツェ市民の妻ジョコンダの肖像であると注解したが,今日に至るまでそのモデルは特定されていない。…
※「モナリザ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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