改訂新版 世界大百科事典 「ヤーガン」の意味・わかりやすい解説
ヤーガン
Yaghan
南アメリカ大陸の最南端に位置するフエゴ島に居住していた採集狩猟民。自称はヤモマ。樹皮製のカヌーをあやつり,海上を移動することからカヌー・インディアンと呼ぶこともある。酷寒の地にもかかわらず,粗末な半地下式の小屋に住み,獣皮をまとう以外はほとんど裸同然で暮らしていた。陸上動物の狩猟には石製矢じりをつけた投げ槍,数個の石をひもで結んだ投石具のボーラやわなを用いた。だがヤーガンは海浜に主として住み,海産物への依存が高かった。女性が海にもぐって海藻や貝をとり,そのほか海獣,魚などを利用した。社会組織は非常に単純で,家族規模以上の恒常的な集団組織はなかった。ダーウィンの《ビーグル号航海記》でも触れられているように,地球上に現存する最も原始的な社会の一つとして,よく引合いに出されてきた。白人の入植,開拓にともなって人口が減少し,現在,純粋なヤーガンは一人も残っていない。
執筆者:友枝 啓泰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報