ヤーガン(英語表記)Yaghan

改訂新版 世界大百科事典 「ヤーガン」の意味・わかりやすい解説

ヤーガン
Yaghan

南アメリカ大陸の最南端に位置するフエゴ島に居住していた採集狩猟民。自称はヤモマ。樹皮製のカヌーをあやつり,海上を移動することからカヌー・インディアンと呼ぶこともある。酷寒の地にもかかわらず,粗末な半地下式の小屋に住み,獣皮をまとう以外はほとんど裸同然で暮らしていた。陸上動物の狩猟には石製矢じりをつけた投げ槍,数個の石をひもで結んだ投石具ボーラやわなを用いた。だがヤーガンは海浜に主として住み,海産物への依存が高かった。女性が海にもぐって海藻や貝をとり,そのほか海獣,魚などを利用した。社会組織は非常に単純で,家族規模以上の恒常的な集団組織はなかった。ダーウィンの《ビーグル号航海記》でも触れられているように,地球上に現存する最も原始的な社会の一つとして,よく引合いに出されてきた。白人入植,開拓にともなって人口が減少し,現在,純粋なヤーガンは一人も残っていない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤーガン」の意味・わかりやすい解説

ヤーガン
やーがん
Yahgan

南アメリカ大陸最南端のフエゴ島の南海岸部を占めていた先住民。同じ島に住むオナOnaやアラカルフAlacalufとともに、農耕をまったく行わない採集狩猟民であった。おもな獲物はアザラシなどの海獣やラクダ科のグァナコであった。人口は19世紀後半には3000人近くあったが、その後急減し、1933年にはわずか40人にまでなった。現在では、ヤーガンの出自を自覚する一握りの人々が残っているにすぎない。南極大陸に近い寒い土地でありながら、衣服は海獣やキツネの皮でつくった小さなケープだけであり、体の表面に獣脂を塗って寒さをしのぎ、足ははだしであった。基本的な社会単位は家族であり、夫方居住の規則をもつ親族集団内で相互扶助が行われた。部族方言の差に基づく五つの地域集団に分けられており、緩やかな政治的絆(きずな)が存在した。

[木村秀雄]

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世界大百科事典(旧版)内のヤーガンの言及

【アメリカ・インディアン】より


[採集・狩猟民]
 アルゼンチンとチリ南部の地域は,16世紀のヨーロッパ人の植民地に入るまで農耕が行われなかった。チリのアラカルフ族やヤーガン族,フエゴ島のオナ族のような狩猟と漁労を生業とする民族や,アルゼンチンのパンパでグアナコ,レア,その他の小動物の狩猟で生きるテウェルチェ,プエルチェ,ケランディ,チャルアの諸族がいた。ヨーロッパ人の移住に対しては強い抵抗を示し,両者の争いは19世紀まで続くが,結局は敗れてこの地域のインディオはほとんど絶滅してしまった。…

【フエゴ[島]】より

… 1520年,マゼラン一行が探検し〈火の島〉と命名した。当時同島にはオナ,ヤーガンアラカルフなどの原住民が住み,同島は原住民の間では〈オニシン(オナ族の地)〉と呼ばれていた。19世紀初めまでヨーロッパ人の渡来はまれであったが,その後南大西洋に航海基地を求めるイギリスの注目を集め,同国船団が渡来するようになった。…

※「ヤーガン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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