フエゴ島(読み)フエゴとう(英語表記)Isla Grande de Tierra del Fuego

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フエゴ島」の意味・わかりやすい解説

フエゴ島
フエゴとう
Tierra del Fuego

正式名称ティエラデルフエゴ島。南アメリカ南端にある島群。マゼラン海峡によって大陸部からへだてられ,東は大西洋,西は太平洋,南は南極海によって囲まれる。ほぼ三角形をなした大フエゴ島 Isla Grande de Tierra del Fuego (単にフエゴ島と呼ばれることもある) を主島とし,ビーグル海峡をはさんでその南に並ぶナバリノ島,オステ島,西方に連なるクラレンス島,サンタイネス島,デソラシオン島などを含む多数の島,小島,岩礁から成り,最南のオルノス島に南アメリカの最南端とされるホーン (オルノス) 岬がある。総面積約7万 3700km2。行政的には大フエゴ島の東半がアルゼンチン領 (ティエラデルフエゴ准州) で,総面積の約3分の2にあたるその他の部分がチリ (マガヤネス州) に属する。 19世紀以来両国で領有を争っていたビーグル海峡入口の3島 (ピクトン,ヌエバ,レノックス) は,1984年チリへの帰属が決った。大フエゴ島の北部氷河湖やモレーンなどの氷河地形が発達した標高 180m以下の低地であるが,それ以外はアンデス山脈の南の延長にあたり山がちで,2000mをこえる高峰があり,山岳氷河もみられる。気候は年間を通して冷涼ないし寒冷。偏西風帯に位置し,強い西風が吹き,その風上にあたる西部は年降水量 5000mmに達する多雨域となっているが,風下の東部では 500mm以下に減少。 1520年 F.マゼランが,のちにマゼラン海峡と名づけられた海峡を航行した際に発見し,沿岸に先住民が燃やす夜火が見えたことからティエラデルフエゴ (スペイン語で「火の土地」の意) と命名したが,その後 19世紀初めまで組織的な踏査はなされなかった。この間先住民のオナ族,ヤーガン族などが昔ながらの狩猟採集生活を営んできたが,牧牛の導入と金の発見により 1880年頃からチリ人やアルゼンチン人の入植が盛んになり,81年両国の国境線が西経 68°36′38″の線およびビーグル海峡に沿って定められた。現在大フエゴ島を中心に牧牛,林業,漁業,水産加工,毛皮採取などが行われるほか,石油採取が重要な産業となっている。 1945年同島北部で発見された油田はチリにとって唯一の油田として重要な役割を果している。交通網未発達であるが,アルゼンチン領のウスアイア,リオグランデ,チリ領のポルベニルなどの町を結ぶ道路がある。大陸部とは水路で連絡するほか,定期航空便も就航している。人口はアルゼンチン領6万 9450 (1991推計) ,チリ領 6793 (1980推計) 。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フエゴ島」の意味・わかりやすい解説

フエゴ島
ふえごとう
Isla Grande de Tierra del Fuego

南アメリカ大陸南端部の島。マゼラン海峡以南にあるティエラ・デル・フエゴの群島のうち最大の島である。島の南側はビーグル海峡によって、ホーン岬のある大陸最南の島々と隔てられている。面積4万8200平方キロメートル。このうち東半分の約2万平方キロメートルがアルゼンチン、西半分がチリに属す。

 年間を通じて太平洋からの偏西風が吹きすさぶが、とくに春に強く吹く。低地における年平均気温は一般に5~7℃、気温年較差は10℃以下であり、南緯52度から55度という高緯度に位置するわりには厳しくない海洋性の気候をもつ。島の北東部と南西部では自然の特徴に多くの差異がある。北東部は中生代から新生代にかけての堆積(たいせき)岩からなる低山、台地、平野で、偏西風の山陰にあたるため降水量が少なく、草原になっており、主としてイギリスからの移住者たちによって開かれた大農場(エスタンシア)でヒツジの放牧が行われている。これに対して、アンデス山脈の南方への続きにあたる島の南西部は、古生代ないしそれ以前の変成岩類およびこれに貫入した花崗(かこう)岩類よりなり、山がちである。島の最高峰ヨーガン山(標高2469メートル)があるダーウィン山脈が走り、多くのフィヨルドに刻まれた出入りの多い海岸線を呈している。また、偏西風に直接さらされて降水量が多く、山麓(さんろく)部は森林に覆われ、高所には氷河が発達している。雪線の高さは標高1000メートル前後である。

 島の北部のマゼラン海峡沿いの地方では良質の石油を産出し、チリにとってもっとも重要な産油地帯になっている。島の人口はチリ領内に3万0400、アルゼンチン領内に12万2000(2001推計)。おもな集落に、アルゼンチンのリオ・グランデと世界最南の都市として知られるウスワイア、チリのポルベニル(大半は旧ユーゴスラビア系住民)などがある。

[松本栄次]

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