日本大百科全書(ニッポニカ) 「ユルズマン」の意味・わかりやすい解説
ユルズマン
ゆるずまん
Jerry N. Uelsmann
(1934―2022)
アメリカの写真家。デトロイト生まれ。デトロイトの高校在学中に写真を学び、1953年から1957年にはニューヨーク州にあるロチェスター・インスティテュート・オブ・テクノロジーのラルフ・ハタースレイRalph M. Hattersley(1921―2000)、マイナー・ホワイトのもとで学ぶ。また1957年から翌1958年にかけてインディアナ大学においてさらに本格的に写真を学び、ヘンリー・ホルムズ・スミスHenry Holms Smith(1909―1986)の指導を受けることになるが、ユルズマンには、これら3名の師の存在が深い影響を及ぼしている。1960年より、サンフランシスコ近代美術館写真部長バン・デレン・コークVan Deren Coke(1921―2004)が所属するフロリダ大学で写真を教えるようになり、1962年には写真教育協会の創設メンバーとなる。同年ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(ニューヨーク州ロチェスター)で初のグループ展開催。翌1963年にはフロリダ州ジャクソンビル美術館において個展開催。1966年フロリダ大学教授に就任。1967年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)においてジョン・シャーカフスキー企画による個展が開催される。また1978年には「鏡と窓――1960年以降のアメリカ写真」展に出品。その他各地で個展、グループ展を開催。作家活動以外に大学における写真教育に力を注ぎ、1979年(昭和54)には日本大学芸術学部で客員教授として教鞭(きょうべん)をとっている。
精緻(せいち)な映像を巧みな多重露光によってアレンジした幻想的な世界描出を特徴とし、暗室作業における高度な印画技法には定評がある。ネガとポジの反転画像を用い、物質の奥行きや大小の感覚、重量感を逆転させ、風景のなかに意外性のある物質を融合させる感性には、デペイズマンdépaysement(シュルレアリストたちの制作を説明する概念。本来あるべき場所から物やイメージを移し、別の場所に配置すること。また、そこから生じる驚異を意味する)の手法を取り入れたシュルレアリスムの影響を見ることができるが、精巧に織りあわされた数々のイメージの融合によって導き出されたファンタジックな視覚世界は、ユルズマン独自の映像美を現出させている。こうした作家独特の世界観や作風は、モチーフや組み合わせの変化が試みられながらもその手法を翻すことなく、一貫した方法論によって制作されている。
[神保京子]
『Jerry N. Uelsmann; An Aperture Monograph (1970, Aperture, New York)』▽『Photographs from 1975-1979 (1980, Columbia College, Chicago)』▽『Approaching the Shadow (2000, Nazraeli Press, Arizona)』