世界全体をどのようなものとして見るかという人間の基本的態度をいう。もとドイツ語の訳で,18世紀に最初にこの語が用いられたときには,〈世界の感性的直観〉というだけの意味であったが,19世紀を通じキリスト教の衰退期に,これに代わる世界像や生き方を包括した意味での用法が確立された。
世界観は伝統や教育や流行によっても影響されるが,基本的には生活にその基礎を置いている。人間は世界の内に生活しているから,周囲の世界の事物や他人と交渉を持ち,それらから作用を受けたり逆にそれらに働きかけて生きている。この過程で人は成功したり挫折したりし,また世の中がよくわかったり,わからなくなったりする。そのような場合,人生や世界がバラ色に見えたり灰色に見えたりする。このように生活気分の中ですでにオプティミズム(楽天観)やペシミズム(厭世観)など,世界に対するある態度が生じている。あるいはまた,なるようにしかならないのだという諦観や宿命観が生まれることもあり,世界の前進を信じ,自己の向上を図ろうとする進歩観も生ずる。これらの生活気分を基礎とし,生活経験の蓄積をふまえて,人は世界の諸問題について統一的な解答と見解を形成する。このようにして得られる世界に対する一定の見解が〈世界観〉と呼ばれるものである。
世界の諸問題というのは,世界とは何なのか,どうして存在するのか,どのようになっているのか,その中で人間はいかなる位置を占め,自分はどこにいるのか,自分に課せられた使命は何で,自分にできることは何なのか,などの問いであって,世界とは何か,人間とは何かの問いは,自分に何ができるか,何をしなければならないのかの問いでもある。世界観はこのように人生観と結びついた世界に対する態度であって,世界を外から眺めるかのような立場をとる〈世界像Weltbild〉とは区別される。世界像は世界を分析し,認識された諸事物の一般的関係を統一的にとらえたイメージであるが,世界観はそれだけでなく,世界の自分にとっての〈意味〉を表現し,生き方と密接に結びついたものである。したがって個人の世界観は論証によって形成したり,また否定したりできない性格をもつ。
世界観は多種多様であり,極端に言えば各人の体験によって一人一人みな異なるのであるが,世界観と呼ばれる限りにおいて共通の構造を持っている。すなわち,根底には必ず生活体験からくる〈気分〉や〈現実把握〉があり,その上で多かれ少なかれ統一的な〈世界像〉がつくられ,それにもとづいて諸問題に一応の説明と意義が与えられる。さらにそこから,あるべき姿としての〈理想〉が打ち立てられ,最高の善や行動の原則など実践の指針が与えられる。こうしてあらゆる世界観は情的な基礎と知的な世界像と意志的な行動の基準を持っているのであって,世界観は哲学に限定されず,宗教や芸術や日常生活にまで広がりを持ったものである。世界観は歴史的に形成されてきたものであり,個人にとっても転回の過程を持つが,社会の中でも相互に対立闘争があり,結合や融合や選択が行われて盛衰をとげてきていて固定的ではなく,世界観そのものも歴史を持つ。
世界観は風土,民族性,生活状態,文化,歴史,国家形態などによって支配され,また時代や場所によって変化し,多種多様であるが,その中でいくつか有力なもの,永続性のあるものが支配的になり,考え方と生き方の伝統をつくってきた。それらをさまざまな角度から見,さまざまな面で切ることによって,いくつかの類型を取り出すことができる。大別して芸術的,宗教的,哲学的(形而上学的)の区別ができるし,地理的にヨーロッパ的,南アジア的,東アジア的など,また歴史的に古代的,中世的,近代的などに類別することが可能である。また職業や階級による世界観の類型もありうる。さらに,それぞれの世界観が独自の類型区分を持っていて,たとえばマルクス主義では唯物論的世界観と観念論的世界観に分け,イスラムでは〈啓典の民ahl al-kitāb〉の世界観とそれ以外のものという類型を立てる。しかし宗教・芸術・哲学のそれぞれは相互に重なり合うことが多く,時代,地域に分けてもその内部には多様なものがあり,複数の世界観が並存して対立抗争しているのが実態である。唯物論的,観念論的という区分も,17世紀以後の物質と精神を実体的に分離する形而上学のカテゴリーを土台としていて,19世紀ヨーロッパ以外では適合しがたく,イスラムでの区分も仏教圏ではあまり意味を持たない。ここでは,各分野・各時代・各地域にまたがる全世界的な世界観の類型化の例を示す。
世界全体を生き物と見る世界観で,世界もその内部の事物も誕生と成長の過程にあり,無定形の混沌から秩序あるものへと形成され,分化発展をとげるものとみる。したがって,世界を目的論的なもの歴史的なものと見る世界観である。世界の多くの地域・時代で見られ,現在なお有力な世界観である。その根底には進歩観があって,自然・人生・教育・産業・政治などあらゆるものが発展的に見られ,価値や行動の基準もこの観点から見られる。この世界観で善とされるのは,この内的目的と自己の目的とを一致させ,それに向かって前進することである。ヨーロッパではアリストテレス主義と呼ばれる伝統となり,ヘーゲルやマルクス主義の世界観もこの類型に入る。ヨーロッパでは13世紀および18世紀後半から19世紀にかけて特に支配的で,生物や技術はもちろん国家や言語もこの見地から扱われた。もちろん衰退や死も考えられ,形態や体制の交替・革命の思想もこれに含まれる。アジアでも古来中国で有力な世界観であり,日本でも盛んであった。一般に農業社会において支配的な世界観である。
→有機体論
世界を等質的な部品の組合せから成る機械と見る世界観で,古典古代にもあったが,有力な世界観として登場したのは17世紀以後のヨーロッパである。機械時計をモデルとするこの世界観はデカルトによって定式化され,近代科学および工業社会の発達とともに世界に広がった。そこで考えられている世界像は要素から構成され,一定の運動を永遠に続ける等質的な物質世界で,すべては量に還元され,力は外から与えられ,あらゆるものが法則に支配されている世界である。すべては時計仕掛けのように動き,かつ正確精密に構成されることが理想であり,人間もこの見地から扱われるから構成部品の一つであり,かつ人体と機械の相違は存しない。外科医学はその典型である。18世紀後半以後衰退したが,20世紀に入って復活し,コンピューターをモデルとして再登場した。機械はもちろん人間も産業も政治もこの見地から見る機械論的世界観は,20世紀後半以後ますます支配的となっている。
→機械論
かつて完全であった理想的世界が堕落して現在の世界になったとする見方で,つねに世界を二重に眺め,あらゆるものの奥に隠された意味を見いだそうとする。歴史的に最も古く世界各地に見られ,特に古代末期や中世末期に有力な世界観であった。それは世界全体とその中の個物が照応し合い,天と地が同一の構造を持つと見てシンボルで表現し,美的見地を重視する。宗教の中の密教や神秘主義に現れ,占星術や錬金術が採用した世界観で,冶金や化学と結びついていた。この世界観での生き方は自己の内面に沈潜して普遍的なものとの一致をめざす修業ないし密儀で,近代以降においては文学や芸術の中に色濃く流れている。
→ヘルメス思想
執筆者:坂本 賢三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般的には、ある統一的観点からする世界の全体把握をいう。世界観といえば、世界の外側にたって、これを対象的に眺め、理解することのように思われるかもしれないが、そうではない。真の意味における世界の包括的理解を志すならば、そのようにみている自分自身の主体的なあり方を含めて問題にせざるをえない。どれほど超越的な視点から世界をみている者でも、彼自身世界を構成する一部分であることにかわりはないからである。世界観を形成する人間もまた現実の世界の動きに巻き込まれて存在するのであり、彼はつくることによって世界をみ、逆にまた世界をみることによってつくってゆく。歴史的現実のなかから世界観は生まれるが、世界観はまた歴史をつくりかえてゆくものである。この意味において、世界観における主体的・実践的契機がしばしば強調されることになる。
科学と世界観の対立ということも、同じ観点から問題にすることができる。科学は事象相互の関係を観察し、法則的に記述するだけで、そのような仕方で世界をみている人間の主体的現実を顧慮しない。科学は観測可能な現象の客観的記述ばかりに終始するため、世界を統一的に把握し、解釈することができない。このために科学は世界「像」を与えることはあっても、世界「観」に達することはけっしてない。これに反し、世界観は単なる客観的対象理解に満足せず、みる主体の実践的把握にまで進んでいく。つまり、世界観は人生観と深く関連しているといえるだろう。
ディルタイは、世界観の形成される根源にそれぞれの生経験があると考え、世界観の類型を宗教、詩、形而上(けいじじょう)学に大別し、さらに形而上学的世界観を、(1)自然主義、(2)自由の観念論、(3)客観的観念論、に分類している。また、シェラーが、(1)ユダヤ・キリスト教的、(2)ギリシア的、(3)自然科学的、の三つの型を区別し、ニーチェがアポロン的とディオニソス的の二類型を考えたことはよく知られている。マルキストは階級的見地からみてブルジョア的とプロレタリア的、哲学的世界観としては観念論と唯物論という対立をたてる。いずれにせよ、人がいかなる世界観を選ぶかは単なる理論的態度だけで決まることではなく、彼がいかなる歴史的状況のなかから、いかなる実践的方向づけのもとにおいて思索し、決断し、行為するかということと深く関係しているというべきだろう。
[伊藤勝彦]
『ディルタイ著、山本英一訳『世界観の研究』(岩波文庫)』
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出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…理由は,(2),(3)が成り立てば,〈x≠0⇒x2>0〉が得られるのに,虚数単位iをとればi2=-1<0となるからである。数学【永田 雅宜】
【数と世界観】
数の概念は自然数の発見以後,それぞれの文化的環境のもとにいろいろに発展してきた。ここでは,その一つである世界観と関連した分野について述べることにする。…
※「世界観」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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