ラックレール式鉄道(読み)らっくれーるしきてつどう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラックレール式鉄道」の意味・わかりやすい解説

ラックレール式鉄道
らっくれーるしきてつどう

走行用のレールの中央にラックレールrack rail(歯形軌条)を敷設し、それに対応する車両の動力によって駆動されるピニオン(小歯車)をかみ合わせて走行する鉄道。勾配(こうばい)の程度によって、粘着動輪と併用したり、ラック駆動のみで走行したりする。アプト式、ストルプ式、リッゲンバッハ式、ロヒャー式などがある。普通の鉄道は、鋼製のレール上を鋼製の車輪で走行するため、レールと車輪との間の摩擦が小さく、勾配の征服には弱い欠点をもっている。ラックレール式鉄道は、急勾配の区間に用いられる方式である。

[松澤正二]

歴史

もっとも古いものに、1812年にイギリスのブレンキンソップJoho Blenkinsop(1783―1831)が特許をとった方式がある。これは、レールと車輪との粘着力の小さいことを考慮して、平坦(へいたん)線でも断面がL形のレールの直立面の外側に等間隔の突起のあるレールを敷設し、それに前後の走行用車輪(動輪)の中間に同径の歯形の動輪をかみ合わせて走行する機関車を使用する方式であった。しかし、普通の粘着方式でも、わずかな勾配の走行には支障のないことがわかり普及しなかった。19世紀の後半になって、ヨーロッパやアメリカで登山の大衆化に伴い、登山鉄道や山越えの鉄道が次々と敷設されるようになり、改めてラックレールの開発・改良が進められ、19世紀末ごろにもっとも普及した。

[松澤正二]

方式

(1)アプト式 1885年にドイツのハルツ鉄道で最初に採用した方式である。薄手の鋼板にラックを刻んだ2~3枚のラックレールを、ラックを少しずらして線路の中央に敷設し、これに対応する枚数のピニオンをかみ合わせて走行する。発明者はアプトRoman Abt(1850―1933)である。

(2)ストルプ式 1898年にスイスのユングフラウ鉄道で最初に採用した方式である。レールの頭部の大きなラックレール1本を敷設し、それにピニオンをかみ合わせて走行する。他の方式に比較して構造が簡単なため急速に普及した。発明者はストルプEmil Viktor Strub(1858―1909)である。

(3)リッゲンバッハ式 アメリカ、ニュー・ハンプシャー州のワシントン山の鉄道で1869年に採用した方式である。2枚の鋼板の間に一定間隔に、丸棒(マーシュ式)または角棒(リッゲンバッハ式)を細かく固定した細い梯子(はしご)状のレールを敷設して、これにピニオンをかみ合わせて走行するものである。発明者は丸棒式がアメリカのマーシュSylvester Marsh(1803―84)、角棒式がスイスのリッゲンバッハNiklaus Riggenbach(1817―99)であるが、両者は関連することなく別個に考案された。

(4)ロヒャー式 1889年にスイスのピラトス鉄道だけが採用した方式である。平鋼棒の両側にラックを刻んだ特殊なレールを敷設し、このレールを水平に、両側からピニオンで押さえつけるようにかみ合わせて走行する。発明者はロヒャーEduard Rocher(1840―1910)である。

[松澤正二]

『土木学会編『土木工学ハンドブック』(1967・技報堂出版)』


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