日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルサンティマン」の意味・わかりやすい解説
ルサンティマン
るさんてぃまん
ressentiment フランス語
怨恨(えんこん)または復讐(ふくしゅう)感情と訳される。その社会心理学的な意味は、強者と弱者の社会関係、あるいは支配者と被支配者の社会関係のなかにそれを位置づけ、ルサンティマンを「強者への憎悪を満たそうとする弱者の復讐心が内向的に屈折している心理状態」としてとらえたときに浮かび上がってくる。ニーチェは、このような考え方をキリスト教の倫理に適用し、そこにおける「愛」は、ユダヤ教に由来する憎悪感や復讐感情の裏返された表現にすぎないとする。またM・シェラーは、「革命」の本質を、少数の支配階級に対する多数者(大衆)のルサンティマンの結晶化とその発現によって説明しようとした。今日では、ルサンティマンの概念は定着したが、それを社会運動に直結させる考え方は、過度の心理主義的解釈として否定的に評価されている。
[田中義久]
『F・W・ニーチェ著、木場深定訳『道徳の系譜』(岩波文庫)』▽『M・シェーラー著、田中清助訳『道徳形成におけるルサンチマン』(『現代社会学大系8 マンハイム シェーラー 知識社会学』所収・1973・青木書店)』