ルシエ(読み)るしえ(英語表記)Alvin Lucier

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルシエ」の意味・わかりやすい解説

ルシエ
るしえ
Alvin Lucier
(1931―2021)

アメリカの作曲家。ニュー・ハンプシャー州ナシュア生まれ。1950~1956年エール大学で学び、1958~1960年にボストン近郊のブランダイス大学でアーサー・バーガーArthur Berger(1912―2003)、アービング・ファインIrving Fine(1914―1962)らに師事、1961年にドイツのダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会で研鑚(けんさん)を積む。1962年より母校ブランダイス大学、1970年よりコネティカット州のウェスリアン大学で教鞭(きょうべん)をとる。1960年代初めに、イタリアでテープ音楽の制作に携わったことをきっかけに、アメリカに帰国後、電気的なテクノロジーを使ったパフォーマンスを行う。1965年に発表された作品『ソロ・パフォーマーのための音楽』は、脳のアルファ波を使った作品である。二つの電極を頭皮にとりつけ、脳から発せられるわずかな電波を増幅しスピーカーに送り込む。さまざまな打楽器がスピーカーに接触するように置かれ、電気的に増幅された脳波振動によって打楽器がさまざまな音を鳴らし、パフォーマーの脳波に起因する音の空間が創造されるという作品である。パフォーマーは静止状態のままでありながら、その身体から発せられる波動により音の空間をつくるというところにおもしろさがある。1966~1973年電子音楽のアンサンブル「ソニック・アーツ・ユニオン」をロバート・アシュリー、デビッド・バーマンDavid Behrman(1937― )、ゴードン・ムンマGordon Mumma(1935― )らとともに設立し、活動した。

 また、『アイ・アム・シッティング・イン・ア・ルームI am Sitting in a Room(1970)では、「私は部屋で座っている、あなたが居るところとはまた別の所。私が話しているのを録音して、もう一度再生する、ここの部屋で何回も何回も、そしてまた録音して……」といった自らスピーチを、このことばのとおり録音と再生を繰り返すことで、その音はしだいに変容してゆき、最後には形容しがたい響きとなる。そのほかに、鉄板やガラス板の上にまかれたコーヒー豆やグラニュー糖が音振動によりさまざまな模様を描く様子を視覚化した作品『南の女王』(1972)や、電気的な音とアコースティック楽器の振動の共鳴で音の空間をつくり出す『クロッシングズ』Crossings(1988)などがある。

 ルシエは、音楽というよりも音そのものに関心をもち、音という現象を改めて思考した作曲家であった。テクノロジーを用いて、音、空間の特異性を浮き彫りにするルシエの姿勢は、つねに実験的であった。また、彼の作品はテクノロジーを用いながらも、想像力にあふれた作品が多く、1950年代からテクノロジーと音とを融合させる試みを追求してきた電子音楽家で芸術家、音楽家を支援する非営利団体「ポーリン・オリベロス財団」を運営するポーリン・オリベロスPauline Oliveros(1932―2016)はルシエを「エレクトロニック・ミュージックの詩人」とよんでいた。著書に作品解説とインタビューからなる『部屋』Chambers(1980)がある。

[小沼純一]

『Chambers(1980, Wesleyan University Press, Middletown)』

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