レファニュ(その他表記)Joseph Sheridan Le Fanu

改訂新版 世界大百科事典 「レファニュ」の意味・わかりやすい解説

レ・ファニュ
Joseph Sheridan Le Fanu
生没年:1814-73

アイルランド小説家。同時代のW.コリンズらとベストセラー作家の覇を競ったが,死後忘れ去られ,1920年代以降のゴシック・ロマンス再評価とともに復権した。戯曲家R.シェリダンの血を引き,狂気陰謀をテーマにした無気味な物語を著し,ブロンテ姉妹に影響を与えた。本来スウェーデンボリに傾倒する神秘家だったが,妻を失ってからは暗い運命論にひかれ,《アンクル・サイラス》(1864)や《曇りガラスの中》(1872)など晩年の作品は自身の心の崩壊の告白録とも見られる。とくに後者に収められた女吸血鬼の物語《カーミラ》は,後に現れるB.ストーカーの《ドラキュラ》(1897)ほかの吸血鬼ロマンス先駆となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「レファニュ」の意味・わかりやすい解説

レ・ファニュ
れふぁにゅ
Sheridan le Fanu
(1814―1873)

アイルランドの怪奇小説家。トリニティ大学在学中から小説に手を染め、生涯に12編の長編と数多くの短編を書いた。ほとんどが怨霊(おんりょう)や精神障害などをテーマにしたもので、生前はウィルキー・コリンズに匹敵するほどの人気を得たが没後忘れられ、半世紀ののちM・R・ジェームズの紹介によってリバイバルした。長編『アンクル・サイラス』(1864)、『ワイルダーの手』(1864)は、古風な心理スリラーで、ゴシック小説の正統的後継者の面目を示している。短編では『吸血鬼カーミラ』『緑茶』などが知られる。

厚木 淳]

『平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』(創元推理文庫)』『小池滋訳『レ・ファニュ傑作集』(1983・国書刊行会)』

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百科事典マイペディア 「レファニュ」の意味・わかりやすい解説

レ・ファニュ

アイルランドの小説家,雑誌編集者。イギリス幻想怪奇小説の祖といわれ,日常的背景の下に超自然の恐怖を描いた。死後長く忘れられていたが,ゴシック・ロマンスの復権とともに再評価。代表作には《サイラス伯父》(1864年)や《墓畔の家》《ワイルダーの手》などがある。《吸血鬼カーミラ》はブラムストーカーの《吸血鬼ドラキュラ》の霊感源となった。

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世界大百科事典(旧版)内のレファニュの言及

【吸血鬼】より

…男たらし,妖婦をバンプvamp(バンパイアの略)と呼びならわすゆえんである。中でもレ・ファニュの《カーミラ》(1872)は,恐怖美に満ちた女吸血鬼をめざましく描いた作品である。一方,1897年にはストーカーの《吸血鬼ドラキュラ》が出て,吸血鬼はロマン主義的な孤独で〈高貴な旅人〉としてふたたび男性化される(ドラキュラ)。…

※「レファニュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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