百科事典マイペディア 「ゴシック・ロマンス」の意味・わかりやすい解説
ゴシック・ロマンス
→関連項目幻想文学|ブラウン|レ・ファニュ
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18世紀後半のイギリスに起こった,主としてゴシック風の建物を背景とし超自然的な怪奇を扱い,恐怖感を売物とする一群の小説。H.ウォルポールの《オトラント城奇譚》(1764)に始まり,W.ベックフォードなどを経て,絶頂期にはA.ラドクリフ,M.G.ルイス,W.ゴドウィンの諸作品を生み,C.R.マチューリンやアメリカのC.B.ブラウンにいたる。現在はさらに拡大し,小説の一ジャンルとして考える傾向が強い。その場合,ポーやブロンテ姉妹やホーソーンやW.コリンズあるいはR.L.スティーブンソン,さらにW.フォークナー,T.カポーティなど現代作家の作品を含めることもある。
ゴシック・ロマンスは背景となる中世風の城,修道院,宗教裁判,牢獄などのゴシック的道具立てにおいて,その推理小説的な筋の展開において,その人物像とくに悪人像において,さらに人物の内面的分裂を分身の形で示す手法において,新しい特質を小説につけ加えている。とくに分身の手法はゴシック・ロマンスが人間の非合理的な内面,心の中の地下風景を探求していることを示している。ゴシック・ロマンスは歴史的にはS.リチャードソンから始まる,迫害される女性の物語の特質を受け継ぎながら,怪奇小説,推理小説などの発生をうながしその発展に寄与している。
執筆者:榎本 太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…人間関係や風俗から完全にきり離された場で,ある抽象的概念,例えば自然とか神とかと孤立した人間との対決を描く,というような小説が,イギリスにまったくなかったわけではない。例えば,18世紀の後半から流行した,いわゆる〈ゴシック・ロマンス〉と呼ばれる諸作品は,まさにそのような特質を持ち,現実への関心より幻想的要素の方が強いものであった。だが,これらは結局イギリスの土には根づかず,ヨーロッパ大陸やアメリカで,よりすぐれた実りをもたらすこととなった。…
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[歴史と現状]
世界最古の物語《ギルガメシュ叙事詩》以来,今日的にみればSFと呼べるような作品はつねに書かれてきたが,現代SFの諸要素がある種の小説に集結するのは,19世紀になって科学技術による進歩の概念が生まれてからである。M.シェリーの《フランケンシュタイン》(1818)は,当時流行していたゴシック・ロマンスとして書かれた作品で,今でいえば恐怖小説にあたるものだが,明らかに現代文明への予兆をとらえており,人造人間の製造と,それによって変化する人間観がテーマとなっている。いわば前述の(1)~(3)のすべての要素をもった最初の傑作SFと呼んでよいものである。…
…主として怪奇や恐怖,超自然を扱う小説。1764年,イギリスの政治家でディレッタント文学者ホレス・ウォルポールが書いた《オトラント城奇譚》の爆発的人気によって,怪奇と恐怖が読者の中に一種の美意識を呼び起こす類の小説,一般に〈ゴシック・ロマンス〉と呼ばれる作品が世界文学史の中に公認された位置を占めることとなった。しかし,この種の作品は,生まれ故郷イギリスでは,せいぜい半世紀ほどしか盛りの時期をもつことができなかった。…
…日本での貸本業が城崎のような湯治場と無縁でなかったように,イギリスにおいてもローマ支配時代からの温泉場バース(文字どおり温泉の意)をはじめとする保養地には欠かせないものとして栄える。ピカレスク(悪漢)小説のスモレットから,美姫あり槍試合ありの時代小説を書いたW.スコットにいたる時期に,センセーションとセンティメンタルをねらいとするいわゆるゴシック・ロマンスが生まれ,これを専門に出版したミネルバ社は,自社の製品を主に1770年ころミネルバ文庫Minerva Libraryという貸本業をも経営する。貸本業の発達とともに,作家自体が貸本向きの本を書かされるという事態が生じる。…
…19世紀フランスを代表するリアリズムの大作家バルザックにも《セラフィータ》《サラジーヌ》のような幻想的作品があり,モーパッサンにも怪談《オルラ》がある。これらに先立ち,いわゆるプレ・ロマンティスムの揺籃期にイギリスで生まれて,バルザックらにも強い影響を与えたのがいわゆるゴシック・ロマンスの幻想小説群であって,ウォルポールの《オトラント城奇譚》を出発点とし,ラドクリフの《ユードルフォの怪》,M.G.ルイスの《モンク(修道士)》といった衝撃的な怪奇小説,暗黒小説は,近代の合理主義の前夜に非合理的なるものを荒々しく表現しながら,ロマン的想像力の最もラディカルな発現としての毒を内蔵するものでもあった。サドの一連の高度な哲学的作品も一方ではこれら暗黒小説の系譜に連なるものでもある。…
…以前日本語で〈犯罪小説〉というと,現実に起こった事件を基にした小説を意味したが,現在イギリス推理小説界の長老ジュリアン・シモンズ(1912‐94)などが好んで用いるcrime fictionとは,狭いなぞ解きにこだわらず,一般文学作品により近い小説のことを示している。
[歴史――外国]
なぞ解きを扱った文学作品といえば,古くは旧約聖書にまでさかのぼることができるが,一般に推理小説の起源と考えられているのは,イギリスで18世紀後半に流行した〈ゴシック・ロマンス〉である。H.ウォルポールの《オトラント城奇譚》(1764)や,A.ラドクリフの《ユードルフォの秘密》(1794)などでは,超自然現象的な不思議な現象が,結末で論理的に解明され,人間の恐怖心理が分析され,今日の〈スリラー小説〉の先駆となっている。…
…18~19世紀にはフランスなどで新古典主義が盛んになり,ギリシア・ローマなどの古建築が賛美されるようになった。他方,同じ時期に中世へのあこがれを表明するゴシック・リバイバルが興り,その影響下に成立したゴシック・ロマンスではスイス山中の古城などが好んで舞台に用いられた。また孤絶の美学を荒れ果てた墓地にもとめるT.グレーらの墓畔詩人もここから生まれた。…
…彼の小説では《ウィーランド》(1798),《エドガー・ハントリー》《オーモンド》《アーサー・マービン》(いずれも1799)の4編が有名である。先の2編は18世紀末にイギリスで流行したゴシック・ロマンスの型をアメリカの舞台に応用したもので,今日にいたるまで連綿とつづくアメリカ文学におけるゴシック的伝統のさきがけと考えられる。しかしその健筆ぶりにもかかわらず収入は乏しく,そのため雑誌編集を試みるが成功せず,フィラデルフィアの家に戻って家業を手伝いながら執筆活動や雑誌編集をつづけた。…
…のちにジャーナリストになったウィリアム・ラドクリフと結婚。《ユードルフォの秘密》(1794),《イタリア人》(1797)などのゴシック・ロマンスを発表し,一時は〈ロマンスのシェークスピア〉と呼ばれるほど1790年代の小説界を風靡(ふうび)したが,J.オースティンの批判の的ともなった。私的生活については知られていない部分が多い。…
… ヨーロッパ文学において真の意味での小説が確立されたのは18世紀であるから,歴史小説もまたその時代に生まれたとみることができる。とくに,この世紀半ばからイギリスで大流行をみた,いわゆる〈ゴシック・ロマンス〉のかなり多くのものは,前述した歴史小説の特徴を,完全にとはいわぬまでも,かなりの程度までそなえている。しかし,ここでは作者の想像力の働きがあまりにも自由すぎて,歴史的事実が影のうすいものとされているので,アン・ラドクリフ夫人の《ガストン・ド・ブロンドビル》(出版は作者死後の1826年だが,執筆は1802年ころ)を例外として,歴史小説とは呼びにくい。…
※「ゴシック・ロマンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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