ロシアドーピング問題(読み)ろしあどーぴんぐもんだい

知恵蔵 「ロシアドーピング問題」の解説

ロシアドーピング問題

ロシアが国ぐるみで競技選手ドーピングに関わってきたことが発覚し、同国選手がオリンピックや国際大会へ出場することが禁止となった問題。2016年のリオデジャネイロ・オリンピックでは陸上重量挙げなど有力選手を含む100人以上が出場禁止となり、パラリンピックではロシア選手団が全面的に参加停止とされる事態に至った。
ドーピングとは、スポーツ競技などで薬物を使用したり、保管しておいた自身の血液成分を競技前に輸血したりするなどの方法で、不健全に運動能力の向上を図る行為及びそれらを意図的に隠ぺいする行為を指す。ロシアの国家主導のドーピング汚染が暴露されたのは、14年12月、同国の女子陸上選手と、ロシアの反ドーピング機関(RUSADA)に勤めるその夫による、ドイツ公共放送での告発がきっかけ。1999年から活動を続ける世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が独立委員会を設置して調査を進め、2015年11月の調査報告でロシアの組織的ドーピングを認定した。これを受けて、国際陸上競技連盟はロシア陸上競技連盟に資格停止処分を行った。また、RUSADAが選手から賄賂を受け取ったり検査予定を事前に知らせたりといった行為を日常的に行っていたことから、反ドーピング規定を順守していないとして、WADAから資格停止とされた。更に、16年5月にはモスクワ反ドーピングセンター元所長の暴露により、ソチ冬季オリンピック(14年)でのロシアによる組織的な薬物投与や検査不正の疑惑が浮かび上がり、7月にWADA調査チームがロシアの国ぐるみの不正を認定した。報告書によれば、RUSADAは11年から15年にかけて約600件の陽性結果を把握していながら、スポーツ省の指示で半数以上を「陰性」と書き換えたり、ソチ大会では尿検体のすり替えを行ったりしていた。また、これらについてスポーツ相が深く関わっていたことも明らかとなった。こうした事態に臨んで、WADAは国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)にロシアの全選手の大会からの締め出しを提案した。IOCは全面排除を見送り、各国際競技連盟に判断をゆだねたため、陸上や重量挙げはほぼ全ての選手が出場禁止となる一方、卓球馬術は全選手の出場が認められるといった対応のばらつきが生じた。IPCはこれとは異なり、「問題は個人ではなく国家レベルの問題、ロシアのドーピング文化が変わらなければスポーツの信頼性に関わる」として、全ロシア選手の出場を認めない方針を決めた。ロシアはこれを不服として、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に処分取り消しを求めて提訴したが却下され、全面的な排除が決まった(16年8月23日)。また、ロシアはオリンピック陸上についてもドーピングに関与していない選手の出場を求めて提訴していたが、CASはこの訴えを退ける裁定をすでに下している。

(金谷俊秀 ライター/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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