八重山群島西表(いりおもて)島の古見を中心とする村々で旧6月におこなわれる豊年祭〈プール〉に登場する仮面仮装の神。野生の草木におおわれた全身を微細なリズムに揺らしつつ森の奥深くから村の中に立ち現れるこの仮面神の祭祀には,一定の通過儀礼をへた成人男子の構成する秘密結社の成員だけが直接参与できる。女・子どもは祭祀の中核から排除される。だが興味深いのは,この仮面神自身が排除されたはずの女・子どもの本性につながる外部性,他界性,非社会性などと深い象徴的な結びつきをもっていることである。この祭祀はまず村落の全体を象徴的に二分化しながら,この二分化論理を固定化させない要素を内部に導入し,村の社会的宇宙を分裂的な生成状態として柔らかく作りあげようとしているわけである。この祭祀は厳重な秘儀性と豊かな象徴性をたたえているために,はやくから多くの民俗学者や人類学者の関心をあつめてきた。柳田国男はこの祭祀に日本全土に分布する小正月の子ども行事との関連を考え,折口信夫は彼の説く〈まれびと〉信仰の鮮やかな実証を見,また岡正雄は根茎栽培型南方基層文化の重要なあらわれを指摘した。
→プール
執筆者:中沢 新一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
沖縄県八重山(やえやま)列島の稲の豊作祈願の行事。石垣市宮良(みやら)では、アカムタ・クロムタといい、「赤い人・黒い人」の意とする。仮面をつけ、草で装い、稲の豊作をもたらす世持神(よもちがみ)に扮(ふん)した若者が、聖地から現れて、村の家々を訪れ、祝福する。西表(いりおもて)島古見(こみ)が本源で、各地に広まった。旧暦6月の豊年祭の一部で、『八重山島諸記帳』(1727)にもみえる。古見の三離御嶽(みつはなれおたけ)に稲を頭にのせた世持神が現れると豊作であったが、それが絶えたので、人を神の姿にして祀(まつ)り、古見の3部落から1艘(そう)ずつの船を出して競漕(きょうそう)して豊作を祈ったとある。アカマタもクロマタもその仮装神の名で、古見にはほかにシロマタもあり、一神ずつ各部落で祀る。クロマタは親神で、三離御嶽に出現するという。青年になって、この行事に参加するときには、村人としての厳重な資格審査があり、いまも宗教的神秘性が保持されている。石垣市川平(かびら)のマユンガナシ、伊平屋(いへや)諸島のテルコガミも同系統の行事であるが、海神祭(うみがみまつり)とも通じるところがある。
[小島瓔]
…2日目は翌年の豊作を予祝する村をあげての盛大な祭りとなり,仮装した神が出現し,綱引き,舟漕ぎなどが催されるが,村落ごとに一様ではない。西表島古見,小浜島,新城島,石垣島宮良では,2日目に仮面仮装神の〈アカマタ・クロマタ〉が出現して各戸を巡り,村人の繁栄と豊作を祝福する。プールでは1日目の豊作の感謝と2日目の予祝が続けて行われているが,元来は別々の行事であったと考えられる。…
…日本の来訪神には三つの形態がある。ひとつは仮面仮装した異形の姿で来訪するものであって,秋田のナマハゲ,能登のアマメハギ,三陸のナモミ,ヒガタタクリ,甑島(こしきじま)のトシドン,吐噶喇列島悪石島のボセ,宮古のパーント,八重山のアンガマ,アカマタ・クロマタ,ミルク(弥勒),マユンガナシ,フサマラーなどがある。仮面仮装する者の多くは若者であり,また特別の資格を備えた村人である。…
※「あかまたくろまた」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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