日本大百科全書(ニッポニカ) 「アジアノロバ」の意味・わかりやすい解説
アジアノロバ
あじあのろば
Asiatic wild ass
kulan
onager
[学] Equus hemionus
哺乳(ほにゅう)綱奇蹄(きてい)目ウマ科の動物。ギリシア語で「野生のロバ」つまり野ロバを意味するオナガーの名でもよばれる。西アジアからモンゴルにかけて分布するが、各地で乱獲されて減少し、すでに絶滅してしまった地域も多い。体高1~1.3メートル。体は淡黄色から赤褐色で、下面は黄白色。たてがみと尾は黒色で、背中の中央に黒線がある。夏毛は2センチメートルくらいであるが、冬毛は約2倍に長くなる。乾燥した平原に群れですみ、日中は草を食べ、夜は木陰で眠る。群れのリーダーは雌のことが多いといわれている。妊娠期間は約1年。寿命は野生では10~12年ぐらいであるが、35年間飼育した例がある。
[祖谷勝紀]
亜種・近似種
アジアノロバは、その分布地域により次の6亜種に分けられる。
(1)アナトリアノロバE. h. anatoriensis かつてトルコのアナトリア地方に生息していた絶滅亜種であるが、詳細な記録はない。
(2)シリアノロバE. h. hemippus シリア、イラク、北アラビアに分布していたが、1927年に絶滅した。
(3)オナガーE. h. onager かつては、ウクライナ、カフカス地方にも分布していたが、20世紀末では、イラン北部の高原に471頭が残るのみである。
(4)クーランE. h. kulan アフガニスタン、トルクメニスタンからカザフスタンにかけて分布する。1998年の調査では、2400頭が報告されている。
(5)チゲタイE. h. hemionus モウコノロバともいわれる。モンゴルに少数が残っている。飼育例も少ない。アジアノロバのなかでは最大の亜種で、体高1.3メートル、体重260キログラムぐらいに達する。
(6)インドノロバE. h. khur インド西部の乾燥地帯に3000頭弱が生息している(1999)。パキスタン南西部のものは、1960年代に絶滅したといわれる。
チベット高原のキャンは、アジアノロバの亜種とされたこともあるが、頭骨や歯の形態の違いなどにも注目し、1980年代以降はキャンE. kiangとして別種とすることが多い。中国、インドをあわせて、6~7万頭が生息し、パキスタンにもごく少数の生息が確認されている。
[祖谷勝紀]
『今泉吉典監修『世界の動物 分類と飼育4 奇蹄目・管歯目・ハイラックス目・海牛目』(1984・東京動物園協会)』▽『朝日新聞日曜版新どうぶつ記取材班著『新どうぶつ記 朝日新聞日曜版3』(1990・朝日新聞社)』