日本大百科全書(ニッポニカ) 「アジア債券基金」の意味・わかりやすい解説
アジア債券基金
あじあさいけんききん
Asian Bond Fund
2003年に、東アジアとオセアニア11か国の中央銀行によって創設された、アジアの債券市場に投資するための基金。略称ABF。アジア通貨危機の教訓として、アジア各国は欧米金融市場からの短期ドル資金の借入れに依存しすぎたとの反省にたって、アジアの余剰資金をアジアで安定的に活用するための地域債券市場の育成をASEAN+3(ASEAN諸国に日本、中国、韓国を加えたもの)で推進している。その「アジア債券市場育成イニシアティブ」を需要面から支援する試みがアジア債券基金である。
アジア各国の債券市場、さらには国境を越えた(クロスボーダー)の債券市場を育成するにあたって、大きな障害の一つに、アジアには有力な機関投資家等が育っていないという需要サイドの問題がある。そこで、東アジアとオセアニアの11か国の中央銀行役員会議(Executives' Meeting of East Asia Pacific Central Banks:EMEAP)において、2003年6月にABFが創設された。それは、EMEAPメンバーの中央銀行が、保有する外貨準備の一部を拠出し、日本、オーストラリア、ニュージーランドを除く8メンバー国のドル建てソブリン債(中央政府が発行または保証する債券)、準ソブリン債で運用するための基金であり、総額は10億ドル、運用受託者は香港(ホンコン)にある国際決済銀行の事務所とされた。
これは、次につくられる基金と区別するためにABF1とよばれているが、これによって、それまで欧米の国債で運用されてきたアジアの外貨準備が、一部アジアで運用されるようになり、アジアの債券(公債)市場の発展に資することと、アジア各国の通貨当局の外貨準備運用の選択肢が広がるという意義があった。しかし、これはあくまでもドル建て債券での運用であり、アジアに現地通貨建ての債券市場を育成するという「アジア債券市場育成イニシアティブ」の究極の目標を満たすものとはいえない。
このため、さらにABF2とよばれるファンドが、2004年に創設された。こちらは、投資対象がドル建てではなく、加盟国の現地通貨建てソブリン債、準ソブリン債とされ、なおかつ公的部門の資金を投資するだけではなく、民間投資家にも売り出されるという仕組みになっている。EMEAPは、汎アジア債券インデックス・ファンドに約10億ドル、ファンド・オブ・ファンドとよばれる親ファンドの下にある八つの各国ファンドに約10億ドルを投資しており、あらかじめ定めた市場の指標に沿って運用するパッシブ運用型債券投資信託として運用され、それは民間投資家にも開放されている。
このABF1とABF2には、アジアの債券市場の育成にとって、二つの意義がある。一つは、対象とされている国債および政府系機関債の取引が活発化することにより、そこで形成される金利がベンチマーク(基準)として、社債市場の発展に寄与しうること。もう一つは、ABF2が民間投資家にも解放されたことにより、内外の民間資金の「呼び水効果」が期待できることである。
[中條誠一]