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重症急性呼吸器症候群 じゅうしょうきゅうせいこきゅうきしょうこうぐんSevere Acute Respiratory Syndrome

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

重症急性呼吸器症候群
じゅうしょうきゅうせいこきゅうきしょうこうぐん
Severe Acute Respiratory Syndrome

重症の肺炎を起こす感染症。略称 SARS (サーズ) 。致死率は高齢者では 50%をこえることもある。原因はコロナウイルス科の新しいウイルス。ウイルスの感染経路は,咳やくしゃみなどの飛沫感染,分泌物など体液が目,鼻,口などに触れることによる接触感染が主とされる。潜伏期間は2~7日間で,当初は発熱,悪寒,筋肉痛,咳などの症状があり,続いて頭痛,咽頭痛,息切れなどが現れ,胸部X線写真は肺炎の症状を示す。重症になると,人工呼吸器が欠かせない。原因がウイルスであるため抗生物質はきかない。解熱,人工呼吸器装着など対症療法が主となる。飛沫感染を防ぐマスク装着,接触感染を防ぐ手洗い,うがいなどが有効な予防策とされる。 2002年 11月頃から中国コワントン (広東) 省で発生,アジアを中心に広がった。翌 2003年7月までの8ヵ月間に中国,タイワン (台湾) ,カナダ,シンガポール,ベトナムなどで約 8500人の患者が発生,そのうち高齢者を中心に1割弱にあたる約 800人が呼吸困難で死亡した。日本では 2003年 11月,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (感染症新法) における指定感染症として取り扱われることになった。

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知恵蔵の解説

重症急性呼吸器症候群

2002年11月16日、中国南部の広東省異型肺炎(新型肺炎)の集団発生が起こった。これとほぼ同じ症状を持つ症候群が03年2月中旬に香港で初めて報告され、以降、各国で同様の疾患の発生報告例が続いた。原因ウイルスはSARSコロナウイルス。潜伏期間は通常2〜7日だが、10日以上に及ぶ場合もある。症状は、高熱、続いて悪寒、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛など。発症時には軽度の呼吸器症状があるが、発症3〜7日して下気道症状期になり、乾性咳嗽(かんせいがいそう)と呼吸困難、やがて低酸素血症が見られる。感染した人の飛沫や体液を通じて感染すると考えられている。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

重症急性呼吸器症候群
じゅうしょうきゅうせいこきゅうきしょうこうぐん
Severe Acute Respiratory Syndrome

2002年11月に中国の広東(カントン)省で発生、確認された新興感染症(新感染症)。英語名の頭文字をとってSARS(サーズ)と略称される。感染症予防・医療法では2類感染症に分類されている。38℃を超す高熱、咳(せき)、筋肉痛などのインフルエンザ症状がみられ、咽頭(いんとう)などでウイルスが増殖を続け、一挙に肺に流入して急性肺炎をおこす。抗生物質は効かず、リバビリンなどの抗ウイルス薬での治療が試みられているが確実な効果は出ていない。
 発生地の中国政府の対応の遅れから患者が急増し、2003年2月ころからシンガポール、香港(ホンコン)などで流行、患者の移動によって各国に広がった。世界保健機関(WHO)は、同年3月各国にむけて警告を発し、4月23日中国の北京(ペキン)、山西省、カナダのトロントへの旅行者に対する渡航延期を勧告(トロントは30日解除)、5月には中国の天津市、内モンゴル自治区、台湾全土へと拡大した(6月までにすべて解除)。7月、WHOは感染地域の指定をすべて解除、集団発生が封じ込められたことを宣言した。発生から約8か月後であった。WHOのまとめでは、2002年11月1日~2003年7月31日までに世界29か国・地域で8098件のSARS感染が報告された。死者は774人である(死亡原因がSARSの症例のみの数値)。国別では、中国本土5327件(死者349人)、香港1755件(同299人)、台湾346件(同37人)、カナダ251件(同43人)、シンガポール238件(同33人)、ベトナム63件(同5人)などとなっている。
 2003年7月のSARS制圧宣言以降では、同年12月に台湾で医療関係者の、2004年1月には広東省で一般市民の感染が確認されている。
 原因は変異した新型のコロナウイルスで、2003年4月16日、WHOはこのウイルスをSARSコロナウイルスと名づけた。コロナウイルスは人間のかぜウイルスの一つであるが、これまでこれほど強い症状をおこしたことはなく、SARSウイルスは、おそらくは動物ウイルスが人間への感染力を獲得したものとみられる。アメリカ疾病対策センター(CDC)の解析では、従来のコロナウイルス遺伝子は3万塩基対前後だったのに対し、新型のSARSウイルスは約1万7500塩基対と大幅に少なかった。
 おもな感染経路は咳やくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染とみられる。当初は医療関係者や家族など、重症患者と濃厚に接する人が多く感染した。香港の最初の患者に続く9人の患者は、看護者5人、同じ病室1人、患者と同行者・見舞い客2人で、1人は同じホテル、同じ階の宿泊者であった。香港では人口密集の団地での集団感染があるが、全体的な感染の広がり方からは、空気感染の可能性は低そうである。
 中国本土や香港などでの死者は高齢者や糖尿病患者など免疫機能の低下した人々が多い一方、比較的健康とみられた人も犠牲になっており、なにが生死を分けているかはわかっていない。
 厚生労働省はウイルスの国内侵入を警戒し、検疫体制を強めるとともに、2003年(平成15)4月、SARSを感染症予防・医療法に基づく「新感染症」の第1号に指定。患者が自由に動き回り、ウイルスをまき散らすような事態を避けるため、医師に報告を義務づけた。前述のように同年7月末にSARSの流行は一応は終息したが、再流行の可能性を考慮し、同年11月施行の改正感染症予防・医療法で1類感染症に定められた。その後、SARSの感染力、罹患(りかん)した場合の重篤性などに基づき再分類の検討が行われ、2007年の改正では2類感染症に変更された。
 SARSは専門病院で呼吸管理をきちんとすれば患者の救命や感染の拡大を防ぐのはむずかしくない、とみられる。一般的には、人込みを避ける、手洗いの励行などは予防に役だつが、ウイルス病予防の最善の手段は体の免疫力によるものなので、きちんと栄養をとり、規則正しく生活することが何より重要である。[田辺 功]
『リォン・ピンチョン、オーイ・エンロン著、小山景子他訳、切替照雄監修『SARS最前線』(2003・扶桑社) ▽山本達男著『SARS――重症急性呼吸器症候群』(2003・日本医書センター) ▽国立感染症研究所・岡部信彦編『SARS感染対策――対応のための基礎知識Q&A』(2005・メディカ出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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