翻訳|Adam
ヘブライ語で〈人〉または〈人類〉を意味する語。旧約聖書《創世記》1~3章では人類の創造と堕罪を最初の1組の男女によって叙述するので,現代語訳聖書はアダムをふつう〈人〉と訳している。《創世記》1章の祭司資料では,神が〈自分のかたちに似せて〉男と女を創造し,被造世界の統治を委ねた。2~3章のヤハウェ資料では,神はまずアダムを土(アダーマー)から造り,エデンの園に置いてその耕作者とし,獣に命名させてから,彼を熟睡させて,その肋骨からイブEve(エバ)を造り,彼の妻とした。3章の堕罪物語では死をもって神が禁じた知恵の木の実を蛇のそそのかしによって最初に食べたのはイブであり,彼女のすすめでアダムも食べた。彼らは裸に対する羞恥心に目覚めた。神は禁令を破った2人を園から追放し,〈人〉には生涯のつらい労働を,その妻には産みの苦しみを課した。追放以前の2人が不死であったとは記されていない。新約聖書はアダムにより人類に死と罪とが入ったと記す。
執筆者:並木 浩一
キリスト教美術におけるアダムとイブの物語は,その原罪に主題が集約されている。事実,初期キリスト教時代には,〈禁断の木の実を食べるアダムとイブ〉のみが単独で描かれる場合が多い。しかも,それがキリストおよびその象徴的表現である〈善き羊飼い〉と対をなしている場合には,明らかに〈罪人たる古きアダム〉と〈人類の魂を救う新しきアダムたるキリスト〉とが対比されている。イブについても聖母マリアとの対比が認められる。初期キリスト教時代にすでに,アダムの創造から楽園追放にいたる連続した場面が写本挿絵に描かれていたと想像され,9世紀以降の多くの現存作例では,次のような場面に細分化されて描かれている。まず天地創造の第6日目の〈アダムの創造〉とそれに付随した〈イブの創造〉である。アダムは泥土から造られ,生命の息を吹きかけられる2場面に描き分けられることが多い。イブの表現には,アダムの横腹から出た胸像または全身像,さらにアダムの側でオランスorans(祈禱)のポーズをとるなどのバリエーションが見られる。創造ののち,楽園(エデン)の場面として,〈動物に名前をつけるアダム〉〈アダムとイブの結婚〉〈神の説諭〉などがある。次の誘惑と原罪は,〈禁断の木の実を食べるアダムとイブ〉に集約される。ここでは誘惑者たる悪魔は原則として蛇で描かれるが,中世末期には女性の頭をもつ蛇あるいはトカゲ,ルネサンス美術では角をもった牧神も登場する。知恵の木の実は,ビザンティン美術およびイタリアではイチジクかオレンジ,フランスではリンゴ,ブドウ栽培の盛んな地方ではブドウとして描かれている。そして楽園追放の場面として,〈イチジクの葉で身体を隠すアダムとイブ〉〈楽園追放〉〈労働に従うアダムとイブ〉が続き,例外的に息子カインとアベルの物語中に登場する場合がある。
執筆者:名取 四郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
『旧約聖書』の「創世記」にある天地創造物語に出てくる、神につくられた最初の人間の名前。この最初の人間がアダムと名づけられたのは、神が人間を土(ヘブライ語でアダーマー'adāmāh)からつくったためだと説明されている。このアダムの肋骨(ろっこつ)をとってつくられたのが人類最初の女イブ(ヘブライ語ではハッウァーawwāh)である。なおヘブライ語でアダム'ādāmは、同時に人間一般を意味する語としても用いられる。
このアダムとイブとが、ヘビに欺かれ、神から禁じられていた「善悪を知る樹」の実を食べたために、神はこの2人をエデンの園から追放した。これが失楽園の物語である。『旧約聖書』を正典とするキリスト教では、この物語に人類最初の罪の堕落をみる。そして、このアダムの罪を後のすべての人間は生まれながらに負っている、と考えるのがいわゆる原罪の思想である。『新約聖書』はイエス・キリストを第二のアダムとよぶ(「コリント人への第一の手紙」15章45節以下など)。それは、最初の人類アダムが神の命令に背いて罪を犯し、罪の結果である死を全人類にもたらしたのに対し、イエス・キリストは罪を犯さず、しかもその身を十字架に捧(ささ)げることによって、人類に罪からの解放と永遠の生命を与える救い主になったからである。このように、アダムは単に最初の人間というだけでなく、人間の本質を示す典型としても解釈されてきたのである。この点では、失楽園物語をいくぶん異なって解釈するグノーシス主義や、異端的キリスト教においても同様である。
[月本昭男]
『関根正雄訳『創世記』(岩波文庫)』
ドイツのバス・バリトン歌手。少年時代は生地ドレスデンの十字架合唱団員として活躍。当時ドレスデン国立歌劇場指揮者であったヨーゼフ・カイルベルトに資質を認められ、1949年同歌劇場でデビューした。1952年にベルリン国立歌劇場と契約、同年バイロイト音楽祭に初出演。以後、現代の代表的ワーグナー歌手として世界の歌劇場で活躍を続けるかたわら、モーツァルトの歌劇や歌曲にも力を注いだ。一方、1950年代から1970年代にかけてはバッハの宗教音楽でも活躍、カール・リヒターの指揮でカンタータを多数録音した。2006年、現役を引退。
[美山良夫 2019年1月21日]
『高橋英郎編著『モーツァルト・オペラ・歌舞伎』(1990・音楽之友社)』
18世紀後半に活躍したイギリスの建築家。スコットランドの建築家ウィリアム・アダム(1689―1748)の子で、4人兄弟そろって建築家だが、この次男のロバートがもっとも有名である。彼は古典古代の建築に深い関心をもち、1750年以降ポンペイ、ヘルクラネウムの遺跡を踏査し、さらに1757年には現クロアチア、アドリア海に臨むスプリトに残るローマ皇帝ディオクレティアヌスの宮殿を実測調査して、1763年その成果を公刊した。また、兄弟は協力してロンドンに建築事務所を開き、主として貴族階級を対象に、高級な邸宅の新築、改築を数多く手がけた。その様式はアダム・スタイルとして人気をよび、イギリスの新古典主義を代表するものとなった。ロンドンのケンウッド・ハウス、サイオン・ハウス、オスタリー・パークなどの大邸宅は、いまもその様相を残している。なお、銀器、家具などのデザインも行っている。
[友部 直]
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…雌雄同株のアコウでは,果囊の内部には雄花のほかに,長花柱,短花柱の2種類の雌花があり,コバチが受粉・産卵することにより,長花柱花では種子が,短花柱花では虫こぶができ,種子と虫こぶがほぼ同数となる。【上条 一昭】【岡本 素治】
[象徴]
地上の楽園(エデン)において,アダムとイブは知恵の木の実を食したために,裸であることに気づいて恥じ,イチジクの葉で腰を隠した(《創世記》3:7)。それゆえ,知恵の木は初期キリスト教時代から,しばしばイチジクの木によって表現された(のちにしだいにリンゴの木が多く用いられるようになる)。…
…人類最初の夫婦アダムとイブ(エバ)の居住場所。旧約聖書《創世記》2~3章の創造物語では〈エデンの園〉と記されている。…
…キリスト教神学の用語。旧約聖書《創世記》3章には,まずイブが蛇にそそのかされ,次にアダムがイブにそそのかされて禁じられた木の実を食べ,その結果神に罰せられて,あらゆる生の苦しみをもつに至ったと記されている。またこれによって,神の造った世界の中に罪と死とのろいが入り込んだとされる。…
…キリストがかけられた十字架に関する初期東方伝説。アダムが死んだとき,その子セツSethは神の命により天国の生命の樹から三つの種子を採り,アダムの舌の下に置いた。後年これらの種子はアダムの墓に生育し,やがて美しい大木となって繁茂した。…
…土と肉体または人体との密接な関係は,ほかにも世界各地の人間創造神話の中に見られる。ユダヤ伝説では神が土の塵(ちり)(ヘブライ語で〈アダーマー〉)からアダムと彼の最初の妻リリト(リリス)をつくった。ギリシア神話ではプロメテウスが粘土から人間をつくり,エジプトの造物神クヌムも粘土から人間をつくっている。…
…アステカ神話の勇神ケツァルコアトルは地下界ミクトランから男女の骨を探し出し,これを妻にひかせて粉とした後,自分の血を混ぜて人間を創造した。自分の肋骨からつくられた女(イブ)を見たとき,アダムは〈これこそ,ついにわたしの骨の骨〉と叫ぶ(《創世記》2:23)。巨人伝説は世界各地にあるが,中国では,たとえば呉が越と争ったころ巨大な人骨を見つけ,孔子はこれを禹の時代の防風氏の骨といっている(《孔子家語》)。…
…アダムとイブの,エデンの園(楽園)からの追放をいう。旧約聖書《創世記》2~3章によると,アダムとイブは苦しみも心配もなくエデンの園に住んでいたが,蛇の誘惑に負けて知恵の木の実を食べた。…
※「アダム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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