アデラード(その他表記)Adelard

改訂新版 世界大百科事典 「アデラード」の意味・わかりやすい解説

アデラード(バースの)
Adelard

12世紀の前半に活躍したイギリスのスコラ学者。生没年不詳。バースBathの生れ。文化史的に〈翻訳の世紀〉と呼ばれるヨーロッパ12世紀の典型的な学者の一人で,アラビア文化圏で開花していた科学的な新知識をラテン世界に翻訳・紹介するのに開拓者的な役割を果たした。フランスで学んだ後,旧来の知識に飽き足らず,イタリア,シチリアシリアのほかに,おそらくパレスティナスペインをほぼ7年にわたって巡歴し,新知識の吸収に努めた。その後故郷のバースに戻り,皇太子時代のヘンリー2世の師傅となった。彼の主要な翻訳としては,ユークリッドの大著《ストイケイア》,フワーリズミーの《天文表》と《インド式数学について》等が挙げられる。また彼自身の著作としては,《同一と差異について》と《自然の諸問題》がある。これらの著作から彼が折衷的なプラトン主義者であったことがうかがえる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アデラード」の意味・わかりやすい解説

アデラード
あでらーど
Adelard of Bath 英語
Adelardus Bathoniensis ラテン語

12世紀前半のイギリスの学者。バースに生まれ、フランスのトゥールで学び、ランで教えたが、その後7年間、シチリア、キリキア、シリア、パレスチナを旅行し、1126年イギリスに帰り、『自然の諸問題』などを書いてアラビアの新しい知識を西欧世界に伝えた。とくにユークリッドの『原論』全巻を初めてアラビア語からラテン語訳したのは有名。また初期には『同一と差異』という哲学の著作を書き、普遍者の問題に対し「無差別説」を主張してプラトンとアリストテレス立場を総合しようとした。

伊東俊太郎 2015年1月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のアデラードの言及

【中世科学】より

…スペインのトレドやシチリア,および北イタリアの諸都市において,ユークリッド,アルキメデス,プトレマイオス,アリストテレスの自然学,フワーリズミー,イブン・シーナー,イブン・アルハイサムなどの第一級の科学文献がラテン語に訳され,後の〈科学革命〉にいたる西欧科学の知的基盤をつくった。この〈12世紀ルネサンス〉の翻訳者として,クレモナのゲラルド,バースのアデラード,カリンティアのヘルマンHermann von Karinthia,チェスターのロバートRobert of Chesterらが知られているが,とくに70種以上の科学文献をアラビア語からラテン訳したゲラルドの功績は大きい。 13世紀には,このようにしてとり入れられたギリシア,アラビアの科学の遺産の上に,ようやく西欧科学の独自な活動が開始される。…

【無差別説】より

…ギヨームはここで〈類似〉を普遍概念の基礎とみなすことにより,極端な実在論をしりぞけ,普遍を概念のうちにおく〈概念論conceptualism〉に転じたとみられる。同時代のバースのアデラードにも同じ見解がある。普遍論争【泉 治典】。…

※「アデラード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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