改訂新版 世界大百科事典 「アブビル文化」の意味・わかりやすい解説
アブビル文化 (アブビルぶんか)
北フランス,アブビルAbbevilleのソンム川高位段丘の遺跡を標準遺跡とする前期旧石器時代文化。いわゆるハンド・アックスをもつヨーロッパの石器文化の最古に位置づけられる。共伴する動物相を根拠として,第四紀の古い部分,おそらくミンデル氷河期に属する文化と考えられている。ただ確実にこの文化にあてられる遺跡は極めて少なく,遺物も二次堆積層で,しばしば沖積層から発見される。したがって文化的特色はよくわかっていない。特色的な石器のハンド・アックスは,大きな剝離で整形され,その刃部(稜部)はジグザグ状を呈し,製作時のハンマーに石が用いられたことを示している。握りの部分とするため,一部に素材の原礫面が残されている。この文化は最初モルティエによってシェル文化と命名されたが,提示されたシェルChelle遺跡の遺物が二次堆積のものであったため,H.ブルイユは標準遺跡をアブビルに変えたのである。現在では,シェル文化の名は,アフリカの一部について用いられるだけである。
→シェル・アシュール文化
執筆者:山中 一郎
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