アラバール(読み)あらばーる(英語表記)Fernando Arrabal

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アラバール
あらばーる
Fernando Arrabal
(1932― )

スペインの劇作家。旧スペイン領モロッコのメリリャに生まれる。1936年、4歳のときモロッコでスペイン内戦の口火が切られ、当時スペインの陸軍中尉で、軍部のクーデターに参加することを拒んだ父親は官憲に逮捕されたまま行方不明となり、残された母親と家族だけでスペインに帰国、マドリードに移住した。1952年、20歳で処女戯曲『戦場のピクニック』を発表して以来、詩や人形劇を新聞に投稿、1955年、22歳のときにドラマ『三輪車の男たち』(1953)で文学賞を受賞。同年、演劇を学ぶためにフランス留学資格を取得してパリへ移住。以後、フランス語で著作活動を続けている。
 フランス留学当初からフランツ・カフカやサミュエル・ベケットなど不条理を主題とする作家たちの影響を受けながら独自の詩的世界を追求し、『ファンドとリス』(1959)、『ゲルニカ』(1960)、『ポンコツ車の墓場』(1961)、『大典礼』(1964)、『建築家とアッシリア皇帝』(1967)など次々に発表して、パリのジュリアール出版社から刊行された戯曲集は、その後9巻に及んだ。
 1967年、偶然祖国スペインへ旅行した際、アラバールは作品を通じて自国のフランコ政権に対して反逆行為を行ったという理由で逮捕、投獄された。危うく父親の二の舞を踏むところだったが、さいわい半年後に裁判が行われ、その結果無罪釈放され、その体験をもとにドラマ『悦楽の園』(1967)を完成させた。さらに2年後、ニューヨークに招待されている間に、自分の牢獄体験を題材にしたドラマ『奴らは花に手錠をかけた』(1969)を発表した。スペイン内戦による恐怖の幼児体験と悪夢の世界から出発したアラバールの反権力の演劇は、1968年のパリ五月革命での学生アジテーション体験をもとに書かれた政治ドラマ『赤と黒の夜明け』(1970)へと発展していくのだが、やはりアラバールが最終的に回帰するところは、画家のゴヤ、異形の劇作家バーリェ・インクランなどに代表される、スペインの伝統的グロテスクとエロティシズムの儀式である。
 なお、アラバールは全9巻に及ぶ戯曲集のほか、パリのクリスチャン・ブルゴワ社から1970年に新小説(ヌーボー・ロマン)『狂気の石』『鰯(いわし)の埋葬』『混乱の祭りと儀式』を発表。さらに『演劇手帳』第1号(1968)と第2号(1970)では、ニューヨークのリビング・シアター、カリフォルニアのテアトロ・カンペシーノ(農村劇団)、パリのテアトル・デュ・ソレイユ(太陽劇団)ほか、同時代の世界の前衛劇団の理論とドキュメントおよび演劇と政治についてのリポートを紹介。そのほか自ら監督した映画として『死万歳』(1971)、『我、馬の如く行かん』(1974)、『ゲルニカの木』(1975)の3作がある。
 1970年代初めは映画製作に多忙だったが、その間にも、オペラ『愛のテクニック』(1970)、ミュージカル『ベラ・チャオ』(1972)などを書いた。1975年、アビニョン演劇祭でドラマ『幽霊列車のバラード』(1975)を発表、1979年には『バベルの塔』(1976)がパリのオデオン座で上演された。1970年代から1980年代にかけて、アラバールはボードビルやバレエの台本にも活動範囲を広げていったが、一方ではその時期に、アラバールのドラマ作品はフランス以外の欧米諸国や南米でも注目され、1971年『建築家とアッシリア皇帝』がロンドンの国立劇場オールド・ビック座で上演されたのをはじめとし、1978年にニューヨークの前衛劇団がアラバールに演出を依頼し、『奴らは花に手錠をかけた』を市内の教会で初演して話題となった。
 1995年ルーマニアの大劇場オデオン座で『戦場のピクニック』が初演された。1989年の東欧社会主義体制崩壊に伴う自由化によって、新しい外国作家の作品上演がようやく「解禁」となり、ヨーロッパの社会主義国にもアラバールのドラマが舞台に登場することになった。しかし、それは同作品のフランス初演のときから20年以上も後のことであった。
 日本では、1974年(昭和49)に国際青年演劇センター(KSEC(クセック))制作により東京のパルコ劇場で『彩られた青春』(1973)が上演され、そのおりにアラバールは初来日した。上演は日本の古典的能曲『卒塔婆小町(そとばこまち)』のモチーフと重ね合わせた演出であった。1985年に再来日し、パルコ劇場で『大典礼』を自らの演出で上演(パルコ・人力飛行機舎制作)した。[若林 彰]
『若林彰・宮原庸太郎・利光哲夫訳『アラバール戯曲集』全4巻(1968~1985・思潮社) ▽Francoise Raymond-Mundschau ARRABAL ; Classiques du XXe Siecle(1972, Edithion Universitaire)』

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