改訂新版 世界大百科事典 「アンチキリスト」の意味・わかりやすい解説
アンチキリスト
Antichristos[ギリシア]
新約聖書と後期ユダヤ教の黙示文学に見られる思想・用語。福音書では,世の終りが近づくと〈偽キリストや偽預言者が起こって,大きなしるしと奇跡をなし,できれば,選民をも惑わそうとするであろう〉(《マタイによる福音書》24:24)と言われている。パウロはキリスト再臨の前に〈不法の者〉が現れるだろうと述べている(《テサロニケ人への第2の手紙》2:1~11)。〈アンチキリスト〉の名はヨハネの手紙に見られる(《ヨハネの第1の手紙》2:18,《ヨハネの第2の手紙》7節など)。それはイエスのキリストたることを否認する者で,終りの日に先立って今現れているという。黙示文学では,エルサレムを荒らしたアンティオコス4世が終末時の敵の原型とされ,さらにローマ皇帝ネロやドミティアヌスもそのようにみなされた。宗教改革者はしばしばローマ教皇をアンチキリストと呼んだ。ニーチェの書《アンチキリスト》はみずからをそれに模してキリスト教道徳を攻撃したものである。
→悪魔
執筆者:泉 治典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報