翻訳|art director
広告会社、広告主企業の宣伝部門、広告制作会社(プロダクション)などに所属する美術担当者で、広告の視覚的表現全体に責任を有する者。ここでいうアートとは、広告作品のなかで類型化された植字などを除く、あらゆるイラストレーション、写真、ロゴタイプ(合成文字)、手書き文字などの総称、もしくはそれら全体のレイアウトをさす。これら諸要素を有機的に結合し、美的に整序して、訴求効果のある広告づくりを監督するのがアート・ディレクターの仕事である。具体的にはコピーライター、フォトグラファー、イラストレーター、レイアウトマンなどのスタッフと共同で作業し、彼らの仕事を指揮、調整して、ユニークで統一あるビジュアライゼーション(視覚化)を実現する。
このようにアート・ディレクターは広告のクリエーティビティ(創造性)にもっとも深くかかわるので、アーチストとしての資質はもとより、広告人としての豊富な知識と経験をもち、さまざまな要請にこたえうる人材でないと十分な役割は果たせない。すなわち、アート・ディレクターは、まず、広告主企業の特性、広告商品の特長、そのターゲットたる市場の動向、訴求対象たる消費者グループの価値観と欲望、彼らの流行や消費性向などを的確に把握する必要がある。ついで広告主の販売政策、コミュニケーション目標を理解し、これをもっとも効果的に達成するための表現コンセプトを打ち立てなければならない。これは具体的な表現のためのアイデアやキー・ワードをみつけだすことで、他の競合広告とは明らかに差別化されたユニークなものでなければ意味がない。こうした判断力、独創力に加えて、スタッフのクリエーティブ・ワークを効率よく進めるための指導力、統率力が要請される。
以上のようにアート・ディレクターは広告制作のうえできわめて重要な位置を占め、多彩な能力を発揮するが、企業間の組織の差異や共同作業の規模の大小によって、その役割はかならずしも一様でない。これは、日本とアメリカのアート・ディレクターを比べてみても同様である。なお、広告以外の分野でも、写真集や美術書などビジュアルな出版物が増え、アート・ディレクターの仕事の広がりと役割の重要性が増している。
[豊田 彰]
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