イラストレーション(読み)いらすとれーしょん(英語表記)illustration

翻訳|illustration

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イラストレーション」の意味・わかりやすい解説

イラストレーション
いらすとれーしょん
illustration

言語による表現と同時に知覚されることを前提としつつ、その制作物における主題をより的確に表現することを目標として制作される合目的的な画像。イラストレーションという概念の範囲には、絵画図解図表、写真などが含まれる。なお、日常一般には挿絵と同義に解されることも少なくない。

 イラストレーションの歴史は、古代エジプトの「死者の書」における挿絵にまでさかのぼることが可能である。また、15世紀初頭のランブール兄弟による『ベリー公のいとも豪華なる時祷書(じとうしょ)』のごとき手写本装飾は、イラストレーションあるいは挿絵という領域の華麗な一頂点を示すものとして高く評価されている。一方、15世紀中葉における活版印刷術発明は、筆彩による挿絵を木版や銅版へ、さらには石版によるものへと向かわせることとなり、19世紀後半に写真製版が実用化されるに及んで、挿絵は各種印刷技術の活用を前提とするものとなった。

 挿絵とは、主として、言語による表現のための説明的ないし補助的な役割を担う絵画をいうが、19世紀なかばからの絵入り雑誌や新聞などの隆盛により、イラストレーションは、言語による表現に従属するのではなく、それ自体が独立した表現となった。イラストレーションは、芸術としての絵画におけるがごとき一品制作、原画崇拝という呪縛(じゅばく)から解き放たれ、基本的には個人性に基づく手仕事でありながら印刷技術を駆使しつつ大衆との接点を保持している。イラストレーションが現代社会においてとくに注目されるに至った主たる素因をここに認めることができる。イラストレーターという職業が確立され、印刷を前提とした彼らの絵は、マス・メディアを通してファッションや広告の世界へと広がりをみせている。

[武井邦彦]

『原弘他編『グラフィックデザイン大系第2巻 イラストレーション』(1960・美術出版社)』『美術出版社編・刊『12人のグラフィックデザイナー』全3集(1968~69)』『日本グラフィックデザイナー協会教育委員会編『ヴィジュアル・デザイン第3巻 イラストレーション』(1993・六耀社)』『新井苑子著『イラストレーションの発想と表現――イメージを無限に広げるイラストレーションの不思議』(1993・美術出版社)』『宇野亜喜良・田中一光ほか監修『日本のイラストレーション50年』(1996・トランスアート)』『J・ヒリス・ミラー著、尾崎彰宏・加藤雅之訳『イラストレーション』(1996・法政大学出版局)』『京都造形芸術大学編『イラストレーションの展開とタイポグラフィの領域』(1998・角川書店)』『日本グラフィックデザイナー協会編『イラストレーション』(2000・六輝社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イラストレーション」の意味・わかりやすい解説

イラストレーション
illustration

本来的には,書物,新聞,雑誌などの文章記述の内容をわかりやすく説明するため,または飾りのために添える広い意味での挿絵。絵や版画に限らず,写真などを組合せたコラージュなど,その形式は広い範囲にわたっている。書物の成立した古代エジプト以後,挿絵は絵画芸術の一分野として発達してきたが,印刷技術の発展がその発達と多様化を急速に進めることになった。日本では特に小説の挿絵が,独自の新聞連載小説というジャンルのなかで,世界にも類のない特殊な発達をみせている。本来,挿絵は文章に対して従属的な位置にあるものであるが,ある目的に合せて描かれる本の表紙絵や広告の絵なども,いまではしばしばイラストレーションと呼ばれ,それ自体が鑑賞評価の対象とされる傾向がある。また絵画芸術の分野では,とりわけ中世の装飾写本の挿絵と,近代の版画による詩集その他の挿絵が注目される。

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