デザイン(読み)でざいん(英語表記)design

翻訳|design

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デザイン」の意味・わかりやすい解説

デザイン
でざいん
design

構想、計画、設計、意匠などのさまざまな意味を含み、これらの総合として、またいずれかに力点を置いたものとして用いられる。一品製作にとってかわった近代以降の生産方式においては、ただ単に事物がつくりだされるということ以上に、生産のシステムを整え、あるいは生産物が社会のなかにどのように位置づけられるのかをまえもって考慮するなど、方向づけの段階が重要となった。デザインの語義のなかに含まれる構想や計画とは、近代的な生産方式に欠くことのできない、このような前提の思考をさしている。しかし、実際の段階に入っていっそう具体的に設計され、製品化されるプロセスでは、整合性と相まって美の問題がかかわり、こうした視点からデザインのよしあしが論じられることになる。デザインということばは多義性をはらんだまま、それらを総括する用語として用いられている。

[高見堅志郎]

近代デザインの成立と多極化

デザインが近代的な生産方式と結び付くとき、近代デザインの名のもとにある一つの方向が樹立された時代があった。そこでは、用途に適したもの、合法則的なものが第一義に置かれ、効用的な形式こそが美しいという機能主義美学が生まれた。近代デザインを主導したグロピウスが1925年に『国際建築』を著し、個人や民族を包括したインターナショナルな様式の設定を説いたのも同じ機運にのっとったものである。機能主義や国際主義がデザインの有力な基点であることは疑いを入れぬところだが、一方では単一化や形式化への危険もはらんでいて、その後、個別的な表現の見直し、歴史や伝統の再検討などによって、いっそうの充実が図られることになった。近代デザインが絶縁した装飾の問題がふたたび浮上し、現象的にはアール・ヌーボーアール・デコの流行をみるようになったのもこの路線上で考えられる。なお、近年台頭したポスト・モダニズムの風潮は、近代デザインの総点検をもくろむものである。

 もともとデザインの多極化は、高度大衆消費社会、あるいは情報時代の到来とともに著しくなった。ここではデザインが企業活動に組み込まれ、販売促進のための有力な手段とみなされることになった。すなわち、製品そのものよりもそのイメージをデザインすることが重要になり、広告や宣伝のための商業デザイン(コマーシャル・デザイン)という分野が確立された。他者への伝達のデザインがこれである。ただし、伝達のデザインは広告や宣伝に仕えることには限定されず、公共的な目的のため、あるいは環境形成に一役を担って、大きくその意義は広がった。こうして近年、商業デザインという呼称は広く印刷技術を媒介にした意味でのグラフィック・デザインという用語に変わり、さらに広範囲に視覚にかかわるすべてを含んだビジュアル・デザインの呼称が採用されるようになった。

 今日のデザイン領域では、生産面でのインダストリアル・デザイン、プロダクト・デザインに加えて、視覚伝達のためのこれらのデザイン、また環境デザインが大きな場を占めている。また、デザインの社会的役割が増大したことに呼応して、国家レベルあるいは国際的な規模での総合的な追求が必要となった。今日、国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID、1957設立)、国際グラフィックデザイン団体協議会(ICOGRADA、1964設立)など国際的な団体があり、各分野を横断するような形で世界デザイン会議がしばしば開かれている。

[高見堅志郎]

近代日本とデザイン

明治初年、デザインに「図案」の訳語が採用されて以来、模様や図様をさすことが一般的になった。1896年(明治29)に東京美術学校に図案科が設置され、大正末から昭和初期にかけては各種の民間デザイン運動があり、国立工芸指導所も設立されたが、デザイン本来の意味を失ったままに応用美術という考えが根強く残り、デザインを二義的に扱う傾向がみられた。日本のデザイン界は、ヨーロッパにみられるような様式確立や方法論の設定への模索を経過することなく、第二次世界大戦後、いきなり繁栄期のデザインを体験したという特殊な事情があった。戦前にも、分離派ドイツ工作連盟バウハウスなどヨーロッパのデザイン運動の理念を受け止めようとする動きが散見されはしたが、本格的な展開をみたのは1950年(昭和25)以降になってからのことである。

 日本でデザインという概念の多義性がいっそう混乱しているように思えるのは、おおかたがその歴史の浅さに原因する。しかし、1950年代に入って、グラフィック・デザイナーの中心団体である日本宣伝美術会(日宣美)が結成され(1951~70)、工業デザイナー職能団体として日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)が設立(1952)されるなどの活発な動きがあった。1978年には、グラフィック・デザイナーの職能団体として、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が設立された。以来、今日では欧米の傾向を摂取する段階をすでに終え、世界のデザイン界と共通の課題に取り組み、共通の試練を分け持つに至っている。

[高見堅志郎]

デザインの現状と課題

1980年ごろから始まったコンピュータリゼーションcomputerizationやグローバリゼーションglobalizationは、デザインの発展(あるいは停滞)と無縁ではありえなかった。1965年ごろのコンピュータ・アートは、ささやかな芸術的な試みではあったが、85年ごろにはコンピュータはデザインの道具として欠くことのできないものとなった。CADシステム(コンピュータに支援されたデザインの方法)が実用化されたことにより、設計作業が画期的に合理化された。ディスプレー装置の精度も向上し、映像の設計や加工が可能になり、斬新(ざんしん)かつ大胆な映像が人為的に構成されるようになった。その結果、コンピュータ・グラフィクスという新しい領域が確立され、発展しつつある。

 機械による大量生産が前提とされる工業製品は、商品となって全世界で販売される可能性もあり、多くの人々の幸福に貢献することが希求される。そのような状況のもとで、デザインにはむずかしい課題がつきつけられているように思われる。21世紀に入った現在、いくつかの新しいデザイン思潮についての模索が続けられている。

 第一の思潮は、地方(あるいは地域)の人々の価値観や生き方をたいせつにしたデザインを、その地方(地域)の人々に提供するべきであるという考えである。全世界的なものであるよりも、特定の地方(地域)の文化をたいせつにした製品をつくり、特定の地方の生活に貢献したいという考え方が基本となっている。

 第二は、エコ・デザインに関するものである。製品の材料や工法を吟味する際に、人間の生態や地球の資源などについて十分に考慮すべきであるというデザインの考え方から生まれたものである。製品は、その使用時および廃棄後に環境を汚すものであってはならないし、リサイクルが可能であることが望まれる。

 第三は、ユニバーサル・デザインの試みである。これは地球上のあらゆる人における「使いやすさ」や「生きやすさ」を具体化するべきであるというデザインの考え方から生まれたものである。高齢者、妊産婦、幼児、障害者、病人などすべての人々が満足するデザインが希求されている。長身者と短身者、肥満者と痩身(そうしん)者、右利きと左利き、男性と女性など、それぞれがすべて満足するということは容易なことではない。日本語、英語、ドイツ語というような言語能力の区別を超え、知識や経験なども問われることなく、誰でも使い方が簡単にわかるという便利なデザインが目ざされている。

[武井邦彦]

『勝見勝監修『現代デザイン理論のエッセンス』(1961・ぺりかん社)』『美術出版社編・刊『現代デザイン事典』(1969)』『日本デザイン小史編集同人編『日本デザイン小史』(1970・ダヴィッド社)』『V・パパネック著、阿部公正訳『人間のためのデザイン』(1985・晶文社)』『ジョン・ヘスケット著、栄久庵祥二・GK研究所訳『インダストリアル・デザインの歴史』(1985・晶文社)』『利光功著『バウハウス――歴史と理念』(1988・美術出版社)』『出原栄一著『日本のデザイン――インダストリアルデザインの系譜』(1989・ぺりかん社)』『武蔵野美術大学出版編集室編・刊『現代デザインの水脈――ウルム造形大学展』(1989)』『利光功・宮島久雄・貞包博幸編・訳『バウハウス叢書』全14巻、別巻2巻(1991~99・中央公論美術出版)』『A・J・プーロス著、永田喬訳『現代アメリカ・デザイン史』(1991・岩崎美術社)』『阿部公正監修『世界デザイン史』(1995・美術出版社)』『東京国立博物館編『明治デザイン誕生――調査研究報告書「温知図録」』(1997・国書刊行会)』『ヴィクター・パパネック著、大島俊三・村上太佳子・城崎照彦訳『地球のためのデザイン――建築とデザインにおける生態学と倫理学』(1998・鹿島出版会)』『日本インテリアデザイナー協会監修『日本の生活デザイン――20世紀のモダニズムを探る』(1999・建築資料研究社)』『瀬木慎一・田中一光・佐野寛監修『日宣美の時代――日本のグラフィックデザイン1951―70』(2000・トランスアート)』『伊東順二・柏木博編『現代デザイン事典』(2001・平凡社)』『デザイン史フォーラム編『国際デザイン史――日本の意匠と東西交流』(2001・思文閣出版)』『古瀬敏著『建築とユニバーサルデザイン』(2001・オーム社)』『川内美彦著『ユニバーサルデザイン――バリアフリーへの問いかけ』(2001・学芸出版社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デザイン」の意味・わかりやすい解説

デザイン
design

企画立案を含んだ設計あるいは意匠。「指示する,表示する」という意味を表すラテン語 designareから出た語。一般にそれぞれの分野を冠して,アーバン・デザイン (都市計画) ,建築デザイン,インテリア・デザイン,グラフィック・デザイン,工業デザイン,ファッション・デザインなどと呼ぶ場合が多い。イギリスにおける W.モリスらのアーツ・アンド・クラフツ運動,ドイツでのドイツ工作連盟バウハウスなどの活動に代表される多くの近代デザイン運動が,近代工業の生産システムとデザイン造形との合理的な結びつきを可能にしたことによって初めて定着した。近代デザインでは,機能的,美的,経済的,技術的要因のそれぞれが最も効果的に構成されるとき,最も優れたデザインとなると考えられてきたが,その後現代社会を反映し,人間の情動的,環境的要因がより重視されるにいたった。

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