翻訳|lighting
物体や場所を光で照らすこと、および信号灯のように光源そのものを見せることをいう。人には視覚という優れた知覚があるが、これを働かせるためには照明が必要である。
[東 尭・高橋貞雄]
照明を光源の種類で大別すれば、昼光照明と人工照明とになる。
[東 尭・高橋貞雄]
自然には太陽、月、星、生物発光などの光がある。しかし、照明光源として使えるのは太陽だけといってよく、これを昼光とよぶ。昼光は、直射日光、天空光および地物反射光の三つに分けて考えられる。太陽光が大気圏を透過して直接地表に到達するものを直射日光といい、大気圏を通過中に大気中の分子・塵(ちり)などの微粒子によって散乱・吸収を受け、その散乱光が地表に到達するものを天空光という。また、太陽光が地面や屋外の物体から反射して照明光になるものを地物反射光という。
ここで三つの典型的な天候(快晴、雲のある晴れ、曇天)の日において、大阪で観測された昼光照度の時間的変化をみてみよう。直射日光の照度は快晴日に安定して高い値(真夏正午に10万ルクスに達する所もある)を示し、雲晴日(うんせいび)には雲の影響で不規則に変動し、曇天日にはほとんどゼロになる。天空光による照度は、快晴日には1万ルクス前後を7時間程度保っており、雲晴日、曇天日には、もっと高い照度を比較的安定に続けている。地物反射光は、入力である太陽光のほかに地物の反射性状が影響するために複雑に変化するが、照度値は天空光照度の10分の1程度で、せいぜい1000ルクスとみなされる。昼光照明で屋内作業をする場合は、直射日光を除いた天空光と地物反射光をあわせた光だけが頼りになる。
昼光は窓を通して建物内へ採光される。窓には側窓(鉛直壁にある普通の窓)と天窓(屋根面にある水平な窓)とがある。側窓の大きさについては建築基準法の規定があって、住居の場合、採光に有効な部分の面積の、その居室の床面積に対する割合が7分の1以上であるように決められている。その他の建物についても、「割合」が
に掲げた値以上でなければならない。以上のように昼光利用に努めても、雨天、夕方とか、窓際から3~4メートル以上の奥では昼光照度が不足するから、屋内作業を昼光だけで行うことができず、人工照明を加えることによってその照度低下を補う必要が出てくる。
[東 尭・高橋貞雄]
人工光源による照明を人工照明という。人工光源の多くは安定した光を出すから、確実な照明設計をすることができる。現在までの人工照明の発展は著しく、家屋、ビルディング、道路、広場など、あらゆる場所に照明が行き渡っている。その結果、人間生活の場が時間的にも空間的にも大きく拡大された。以下人工照明を中心に記述する。ただし「人類とあかり」に関する歴史的記述については「灯火」の項目を参照されたい。
[東 尭・高橋貞雄]
光を発生するには、熱放射とルミネセンスという二つの現象がある。これらを細分すると、熱放射には物体を酸化する燃焼と、空気を排除した容器の中で物体を高温に加熱する白熱とがあり、ルミネセンスは気体内の放電と、固体・液体のルミネセンス発光とに分類することができる。
まず「燃焼」をみれば、原人が50万年前(一説では140万年前)に火を使い始めたといわれるが、進歩は遅く、一万数千年前に生物油による油灯が現れた。日本ではろうそくが720年ごろにつくられ、洋灯として石油ランプ(1859)およびガス灯(1872)が渡来した。
「白熱」はそのまま白熱電球の歴史である。カーボン・フィラメントを使った真空電球をエジソンが1879年に発明したことを端緒とし、ついでフィラメントはタングステンに変わり、ガス入り単コイル電球、二重コイル電球、内面艶消(つやけ)し電球、ハロゲン電球などの大きな発明が基となって、多種類の白熱電球が開発された。
「放電」では、1855年に空気中アークによるデュボスク・アーク灯から出発し、低圧放電ではネオングローランプに次いで低圧ナトリウムランプが現れた。高圧放電では、高圧水銀ランプに次いで蛍光高圧水銀ランプが現れたが、やがてメタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプが出現し、これらを総称するHIDランプ(high intensity discharge lampの略、高輝度放電ランプ)の繁栄へと展開する。また蛍光ランプでは、1938年アメリカのゼネラル・エレクトリック社等による実用的な蛍光ランプの発明以来大きく発展し、形状は棒状のほか環形、U字形、平板形、グローブ形などがあり、光色、演色性さらに大きさも多様に広がった。なかでも、蛍光ランプのコンパクト化と細管化が進み、1980年(昭和55)に白熱電球と同じ口金をもった電球形蛍光ランプが、また、1991年(平成3)に管径25.5ミリメートルの高効率の高周波点灯専用形蛍光ランプ(Hf蛍光ランプという)が製品化され、それぞれ電球および従来の棒状蛍光ランプ(管径32.5または28ミリメートル)に比べて格段にランプ効率が高く照明用エネルギーの節約が図られるようになった。1990年代初頭には、長寿命の無電極蛍光ランプと無電極HIDランプが出現した。これら光源の進歩には光源を点灯するための小形・薄形・軽量の高効率電子安定器が大いに寄与している。
「固体・液体発光」では、ELランプ(エレクトロルミネセンス)に次いで1962年に発光ダイオード(LED)が出現した。その後、白色LEDランプが出て表示に加えて照明に応用され始めた。レーザーは1959年にルビーレーザーが発明されてから、固体、液体、ガス、半導体など多種類のレーザーが開発された。
これらをまとめれば、今日の光源界は、白熱電球、蛍光ランプおよびHIDランプという三本柱からなり、各柱は大きさ、形状、特殊性能について多様であって、照明の目的に適合した光源を自由に選択することができる。
[東 尭・高橋貞雄]
照明の仕方のことを照明方式という。これは人工照明を対象にした技術用語で、照明器具の位置と配列により、次の4方式に分けられる。
[東 尭・高橋貞雄]
複数の照明器具を規則的に天井面などに配列することによって、比較的一様にある値の水平面照度をつくりだす照明の仕方。部屋全体にわたってほぼ一様な照度が得られるので、もっとも一般的な照明方式である。この方式には次のようなものがある。
(1)埋込み方式(蛍光灯の連続列埋込み照明、電球などのダウンライトの照明など)
(2)じか付け方式(蛍光灯、白熱灯、HID灯、シャンデリア)
(3)システム天井方式
(4)ルーバー天井、光天井方式
これらのうち、ルーバー天井と光天井方式を除いた各方式では、同種の照明器具をある一定間隔で天井面に取り付けるとき、その部屋の平均水平面照度は次の光束法の公式で計算できる。
ここでEは平均照度(ルクス)、Φは照明器具1台当りのランプ全光束(ルーメン)、Nは照明器具の台数、Uは照明率、Mは保守率、Aは部屋の面積(平方メートル)である。
[東 尭・高橋貞雄]
作業場所にのみ照度を与えるように、対象の作業に対して比較的短い距離から付加的な照明器具で照明する仕方。製図や細かい物の検査などに補助的に照明を増強することがあるが、これらも局部照明ということができる。局部照明は、次のような作業条件に推奨される。
(1)作業場所にのみ高照度が要求される超精密作業。
(2)強い指向性の光で、形やきめを見る作業。
(3)全般照明があってはならないところ。
(4)全般照明により輝度対比が低下し、見え方が悪くなった場合に、これを改善したいとき。
[東 尭・高橋貞雄]
規則的な照明器具の配列による全般照明の代替として、作業場所の一部分を主として照明する方式。これは照明用エネルギーの合理的使用の面から考えられてきたもので、作業の行われる場所のみを局部的に高照度で照明し、それ以外の場所は、その2分の1~3分の1ぐらいの照度で全般的に照明する。作業部分とその周囲を明確に分けて照明することにより、作業にとってあまり重要でない場所の照度を減じ、照明用エネルギーの合理化を図る。
[東 尭・高橋貞雄]
タスク・アンビエント照明方式は、1980年ごろから照明の省エネルギーとパーソナル化(個人的に自分の好みに合わせて自由に照明の明るさを加減したり、点滅すること)の理由から行われるようになった。特定の作業面(たとえば机上面)タスク灯(タスクとは作業という意味で照明では視作業のことである。タスク灯とは視作業をするための照明器具のこと)で照明をし、その周囲(アンビエント)をタスク灯による照度よりも2分の1から3分1の大きさの間接照明で照明する方式。TAL(task and ambient lighting)と略記することがある。全般照明方式に比べて、室内の明るさの分布は非均一で、照明の操作性は個別的で、パーティションを用いたワークステーションがつくりやすい。
以上述べた照明方式は、空間に対する照度の与え方の違いによる分類であるが、照明と建築物との関係から建築化照明という照明方式がある。これは天井や壁を照明用にあらかじめつくり込んでおくもので、光源となる照明器具が見えないように建築の構造体の内側に組み込まれている。建築化照明から室内に発散される光は、最初に天井面や壁面に当たるので間接光になり、空間を柔らかく落ち着いた感じにする。そのかわり見ようとする所に光を向けることは困難で、ものを見るためというよりも空間の雰囲気づくりや、他の光源と組合わせて空間を演出することに適している。おもな手法としては、天井面を照らすものに光天井、折り上げ天井、コープ照明があり、壁を照らすものにバランス照明、コーニス照明、壁ブラケットなどがある。通常の照明器具を独立に取り付ける一般の照明方式に比べ、グレア(まぶしさ)の制御や光の空間配分、さらに見た目の美しさなどの点で優れている。
また、野球場や屋外の大規模なスポーツ施設の照明に投光照明方式がある。これは投光器により競技面に十分な照度を与えるもので、局部照明方式には違いないが、むしろ照明の一手法とみられる。
[東 尭・高橋貞雄]
照明方式が室内の照度分布に関連した照明器具の配置をいうのに対して、照明方法は照明すべき場所や作業への光の当て方に対していう。この光の当て方は、照明器具の配光によって決まるので、むしろ照明器具配光を分類するためにいわれる場合が多い。
照明方法は直接照明と間接照明に大別されるが、それぞれ特徴があり、これらの中間の方法として、半直接照明、全般拡散照明、半間接照明がある。
[東 尭・高橋貞雄]
発散光束の90~100%が作業面に直接到達するような配光をもった器具による照明。照度を得るには効果的だが、グレアについては視線との角度に留意する必要がある。一般に影の出方が強い。
[東 尭・高橋貞雄]
発散光束の10%以下が作業面に直接到達するような配光をもった器具による照明。残りの90~100%の光束は上向きに出ており、天井や壁の上部に一度反射してから、間接的に作業面に到達する。この照明方法の効率は、天井などの反射率に支配され、一般には低い。しかしグレアは少なく、どぎつい影も生じない。
[東 尭・高橋貞雄]
これらは下向きに向かう光束の割合が、それぞれ順に発散光束の60~90%、40~60%、10~40%である器具による照明のことである。
以上の照明方法の分類は、電球照明しかなかった時代には大きな意義をもっていたが、現在では電球以外に蛍光灯が広く普及しており、蛍光ランプだけで拡散照明ができるなど、それほど意義深いものではなくなっている。
[東 尭・高橋貞雄]
建物や場所への目的にあった照明を考え、設計することを照明計画という。照明の目的は、その空間の使用目的とそこで生活したり行動する人々の欲求によって決まる。照明計画の第一歩は、このような主観的な欲求から望ましい視環境を考察することである。望ましい視環境は、大局的には視作業性(見ようとするものがすばやくはっきり見えること)と視覚的な快適性を確保することで、両者のバランスをとることによって得られる。次に、照度や反射率、照明光源の光色や演色性、グレアの程度、影などについて検討する。このような検討を照明要素の検討という。照明要素の検討とともに空間構成、たとえばインテリアのあり方、色彩計画など、照明と密接に関係するものとの調和を図り、空間全体から各部の見え方と雰囲気の演出まで、細心の検討が行われる。
これらの検討を基に照明方式を選定する。照明方式は光源の種類、照明器具の配光などを考え、照明器具の配列を描き出していく。この際には、空気調和や防災および非常用設備との関連も考慮する。選定した照明器具と配列で、所要の照度や照明効果が得られるかどうか照明計算を行う。算定の結果、必要な修正を行って照明案を決定する。照明効果の推定が困難な場合には、部分的な照明実験や縮尺模型による照明実験、あるいは、コンピュータ・グラフィクスを用いた照明シミュレーションを行う手法がとられる。照明設備の設備費、保守を含む運転費の算定も、広い意味の照明計画に含まれる。
[東 尭・高橋貞雄]
照明を行う目的から、明視照明、生産照明、商業照明に大別されるが、対象場所別に住宅照明とか事務所照明などという分け方もある。ただし、両者をそれほど厳密に区別することは意味がなく、前述のように、昼光照明と人工照明というように、広く区別することもある。
[東 尭・高橋貞雄]
視作業のため、よい見え方を与える照明のこと。事務所、学校の教室、図書館などの照明は明視照明に入る。オフィスオートメーション機器の視覚表示装置(visual display terminalを略してVDTという)がオフィスに導入された場合などでは、水平面照度は、従来の机上面の作業とほぼ同様の750ルクスぐらいであるが、VDTのCRTスクリーン面に照明器具の反射像が生じないように、鉛直角60度以上の輝度を厳しく制限した照明器具が使用されることが多い。
明視照明では、照明光源によるグレアがあってはならない。グレアには、ものの見え方を損なう減能グレアと、ものは見えるが不快感を生じる不快グレアの二つがある。事務所等では蛍光灯照明の不快グレアの防止が重要である。照明設計の段階で不快グレアの程度を計算し、その部屋に適した照明器具を選定するようにする。
作業照明と周囲照明の調和が求められる図書室などでは、作業照明は机に装備された蛍光灯の作業灯により、500ルクスが得られ、周囲照明は蛍光灯の間接照明により、ソフトで落ち着いた雰囲気づくりが試みられている。
[東 尭・高橋貞雄]
生産性の改善に役だつとともに、安全を含めた事故の減少、品質の向上を目的とした照明。工場照明などがその例である。工場照明では、天井高さ5メートルを境にしてそれ以上ではHID灯が、それ以下では蛍光灯が一般的に使用される。HID灯は1灯当りの光束が大きいため灯数が少なくてすみ、省電力になる。照度の向上によってもたらされる効果は、生産性の向上に加えて、品質の向上と事故の減少が数えられる。
生産現場では製品の検査は不可欠で、機械による自動化が行われているが、製品のきずや異物混入の発見、等級の判定など困難な検査には肉眼による場合が多い。検査照明では人間工学的な配慮のもとに、検査対象ごとに照度、光色、演色性、光の指向性、光の当て方等を緻密(ちみつ)に検討する必要がある。
[東 尭・高橋貞雄]
商業照明の場合は、照明は販売経費の一部とみなされる。そのため、照明計画は販売促進策の一つとして、商品の展示照明にとどまらず、空間の構成までを計画に盛り込む。一般に店舗の商業照明では、商品を高照度で展示する照明と、店内の全体照明から成り立っている。商業用の展示照明としては、1980年代の後半ころより赤外線反射膜付きのハロゲン電球と、赤外線吸収膜付きの反射鏡を組み合わせた光源が用いられる。これは照明熱を大幅に低減し、熱線を嫌う真珠、布、生鮮食品などの照明に効果をあげている。店内全体の照明は、建築と一体となって施工されることが多い。
[東 尭・高橋貞雄]
住宅照明の役割には、ものを見るのに必要な照明と部屋の雰囲気を演出するための照明の二つがある。ものを見るには照度が大切であるが、雰囲気は照度のみならず部屋の内装や家具・調度品の色彩を生かすような光の色、演色性、光の方向、室内面の明暗、シャンデリアのような光のきらめき等が影響する。住む人の好みにあわせて照明器具とその取り付け位置をうまく選ぶようにする。基本的な照明手法としては、部屋全体を照らす基本照明、読書のようなある行為のために一部分のみを照らす局部照明、絵画などの装飾品を照らすアクセント照明の三つがある。基本照明用の照明器具には、シーリングライト(天井直付け器具)やペンダント(天井吊り下げ灯)があるが、いずれも和風と洋風タイプがある。部屋のスタイルに合わせていずれかを選定する。高齢者は若い人に比べて視覚機能が低下しているので、グレア(まぶしさ)のない良質な照明が必要である。とくに、廊下、階段、浴室、玄関などにおける段差が明確にわかるように照明器具を取り付け、必要な照度を保つようにする。
[東 尭・高橋貞雄]
美術館を特徴づけるものに、展示空間全体が暗い場合と明るい場合とがある。それによってその美術館に特有の雰囲気をつくりだす。もっとも、暗いといっても展示作品はハロゲン電球のスポットライト等で照らされ、細部までよく見えるように設計されている。また、明るい美術館は内装仕上げも明るい色で蛍光灯照明され、作品鑑賞の疲れをできるだけ軽減する効果がある。1990年代になると、個々の展示室は暗く、大展示空間やロビー、エントランスは明るくというようにハイブリッド形の美術館も現れてきた。光源として昼光は優れたものであるが、昼光に含まれる熱線と紫外線は美術品を劣化する。これらの除去は簡単ではない。そのため高演色性の光源を用いた人工照明が多用される。多くの場合、比較的小さな絵画や彫刻は熱線と紫外線をカットした光源で照明し、大きな絵画等はルーバー付き退色防止形蛍光灯器具で照明する。展示ケースの照明ではケース内の温度上昇を避けるために、ケースの外に光源を設置して石英ファイバーガラスでケース内に光を導く方法もとられる。美術品の鑑賞(照度を高くして見やすくする)と保存(照度をできるだけ低くして劣化を防ぐ)は照明にとって相いれない要求であり、どこで折り合うかについては非常に重要で慎重な検討が必要である。
[東 尭・高橋貞雄]
窓から昼光を採り入れることは採光設計といわれ、古くから重視されてきた。自然昼光の採り入れはなにものにも替えがたいものであるが、同時に外界と建物内部を結ぶ開放感や眺望を満たすものである。窓と採光の関係では側窓採光が一般的であるが、1980年代に入ってからは、超高層ビルのような建築物に天窓のあるアトリウムatrium(中庭)が設けられ、新鮮な空間をつくりだすという試みもさかんに行われるようになった。
採光によって生じる室内の照度(明るさ)を推定するには、設計用全天空照度と基準昼光率を使用する。設計用全天空照度とは、室内の採光の程度を予測するために定められた地表面照度のことで、屋外で光を遮るものがなにもない条件で、とくに明るい日=5万ルクス(単位記号lx)、明るい日=3万ルクス、普通の日=1万5000ルクス、暗い日=5000ルクス、非常に暗い日=2000ルクス、快晴の青空=1万ルクスと6区分されている。基準昼光率は、作業の種類や室の種類ごとに定められていて、たとえば、読書室や普通教室では2%である。そうすると普通の日の1万5000ルクスという全天空照度の条件下では、自然採光だけで300ルクス(=15,000*0.02)の室内照度が見積もられる。最低300ルクスあれば十分ではないが読書や教室の作業はできる。基準昼光率は、普通の日において人工照明がなくとも自然採光だけで、必要最低の照度が得られるという指標である。
[東 尭・高橋貞雄]
野球場などの夜間照明には、HID投光器による投光照明方式が採用される。投光器の照準は、競技面に大きな照度むらをつくらないように、かつプレーヤーにグレアを与えないように決定される。カラーテレビ放送がされる球場やサッカー場では、テレビ映像の色再現性に優れた白色の大出力高演色のメタルハイライドランプ投光器が使用される。
[東 尭・高橋貞雄]
日本に本格的な高速道路照明が行われたのは、1963年(昭和38)の名神高速道路の開通以降である。当時は光源として蛍光水銀ランプと低圧ナトリウムランプ(トンネル照明用)とが用いられた。その後HID光源の進歩により、ランプ効率のよい高圧ナトリウムランプが採用されるようになった。1983年に竣工(しゅんこう)した本州四国連絡橋の一つである因島(いんのしま)大橋の高圧ナトリウムランプ照明では、海中の生態系への影響を考慮して、海面に光が落ちないよう配光が制限されている。
[東 尭・高橋貞雄]
空港内の照明施設のうち、進入灯、滑走路灯および誘導路灯(航空機を所定の場所まで誘導する灯器)は操縦士の視覚援助施設であって、国際的に性能基準が定められている。光源にハロゲン電球およびキセノン閃光(せんこう)ランプが使われる。
エプロン灯は、乗客の乗降や荷(貨)物の積み込み、積み下ろしのために、高さ15~30メートルの灯柱にHID投光器が複数個取り付けられる。
[東 尭・高橋貞雄]
都市や街の建造物を美しく照明することである。景観照明の利点は、街並みに美しさを与え、魅力的な夜間の景観をつくり出すことであるが、その街や地域の活性化やイメージづくり、観光や防犯にも役だつ。しかしながら、過剰な照明によってグレアを生じて美観を損なったり、空を明るくしすぎたりしては本末転倒になる。このような照明によるマイナス面を光害(ひかりがい)という。景観照明の対象は、ランドマーク、歴史的建造物、社寺、橋や塔などの公共的建築物、商・工業ビル、樹木などである。有名なものに東京湾に架かるレインボーブリッジ、東京タワー、京都金閣寺、大阪城などがある。景観照明の手法としては、投光照明とイルミネーション(電飾=電気の光による飾り)の二つがある。たとえば、橋の照明において主塔と橋脚を投光照明し、ケーブルを電飾する手法がとられる。これら二つの手法はまったく異なるものであるが、共通していえることは、必要以上に華美にならないことである。また、光をむだに放つことによるエネルギーの浪費は避けねばならない。なお、ライトアップlight upという用語は、夜間に建造物を投光照明することをいう場合に使用される。
以上いくつかの照明の実例を述べたが、照明施設の性能基準を示す尺度として照度があり、日本産業規格(JIS(ジス))の「照明基準総則」(JIS Z9110)では、作業領域や活動領域における維持照度、照度均斉度などが規定されている。なお、国際標準化機構(ISO)による国際規格(ISO 8995-1)を基にした「屋内照明基準」(JIS Z9125)にも照度の規定がある。
[東 尭・高橋貞雄]
照明と色彩は密接な関係にあり、色彩の効果を発揮するのも照明によるところが大きい。色彩を忠実に見せる特性を演色性というが、照明光源の演色性を示す尺度として平均演色評価数(Ra)が用いられる。平均演色評価数の数値は大きいほど優れており高演色であるという。最大値は100である。色の見え方が重要な色の検査や臨床治療、美術品の鑑賞にはRaは90以上、オフィスや住宅、レストラン、店舗、学校、病院、印刷・塗装工場などでは80~90、一般の工場作業では60~80、比較的低照度の作業場所、倉庫などでは40~60、屋内・地下駐車場などは10~40が推奨される。
[東 尭・高橋貞雄]
照明の省エネルギー対策として、次の7項目が有効である。
(1)高効率光源の採用
(2)高照明率の照明器具の採用
(3)室内面の反射率を高くする
(4)局部照明の採用
(5)昼光の利用
(6)きめ細かい照明制御
(7)保守の励行
法律面では、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(略称、省エネルギー法)において、床面積2000平方メートル以上の事務所、物品販売業を営む店舗、病院等、学校、ホテルまたは旅館の5分野の照明設備に対して、建築主の判断基準として「照明エネルギー消費係数」の算出を義務づけ、必要以上のエネルギー消費を制限している。また、「省エネルギー法」で定める施設用蛍光灯器具と家庭用蛍光灯器具に対して、総合効率(単位記号=lm/W)をカタログ等に表示するように定めている。総合効率の数値の大きいものほど省エネルギーになる。
[東 尭・高橋貞雄]
『黒澤凉之助著『最新照明計算の基礎と応用』(1963・電気書院)』▽『東尭著『照明および色彩』(1969・コロナ社)』▽『照明学会著・刊『最新やさしい明視論』(1975)』▽『照明学会編『照明ハンドブック』(1978・オーム社)』▽『照明学会編『屋内照明のガイド』(1978・電気書院)』▽『松浦邦男編『照明の事典』(1981・朝倉書店)』▽『日本建築学会編『昼光照明の計画』(1985・彰国社)』▽『照明学会編『ライティングハンドブック』(1987・オーム社)』▽『ヴォルフガング・シヴェルブシュ著、小川さくえ訳『闇をひらく光――19世紀における照明の歴史』(1988・法政大学出版局)』▽『笠原襄・河本康太郎著『省エネルギー技術実践シリーズ 工場照明』(1988・省エネルギーセンター)』▽『照明学会編『照明用語事典』(1990・オーム社)』▽『照明学会編・刊『照明技術の発達とともに 照明学会75年史』(1991)』▽『照明学会編『インテリジェントオフィスの照明実態調査報告書』(1993・照明学会東京支部)』▽『照明学会編『景観照明の手引き』(1995・コロナ社)』▽『ヴォルフガング・シヴェルブシュ著、小川さくえ訳『光と影のドラマトゥルギー――20世紀における電気照明の登場』(1997・法政大学出版局)』▽『照明学会編『大学課程照明工学』(1997・オーム社)』▽『乾正雄著『建築の色彩設計』(1997・鹿島出版会)』▽『小原清成著『照明をはかる』(1999・日本規格協会)』▽『照明学会・技術規格JIES-008(1999)著『屋内照明基準』(1999・照明学会)』▽『インテリア産業協会インテリア・コーディネート・ブック編集委員会著『高齢者のための照明・色彩計画――光と色彩の調和を考える』(1999・インテリア産業協会、産能大学出版部発売)』▽『面出薫・LPA著『面出薫+LPA 建築照明の作法』(1999・TOTO出版)』▽『小原清成編、大山松次郎著『あたらしい照明ノート』(2000・オーム社)』▽『小泉実著『絵とき 照明デザイン実務学入門早わかり――視環境からみたインテリアライティングの技法』(2000・オーム社)』▽『中島龍興著『照明「あかり」の設計――住空間のLighting Design』(2000・建築資料研究社)』
照明とは,光を人間の生活に役だたせる技術である。人間の生活にはさまざまな局面があるので,照明技術も幅広い内容をもつ。照明はおおまかに次の5領域に分けられる。(1)物とその周辺を光で照らして見えるようにする照明。事務所,学校,工場などの照明がこれにあたる。(2)光を利用して人間の情緒に訴えようとする照明。レストラン,喫茶店,ショーウィンドー,舞台,噴水などの照明。(3)交通信号,道路情報表示装置,ネオンサイン,スコアボード,各種のディスプレーなどのように光源そのものを情報の伝達手段として利用する領域。(4)可視光線だけでなく紫外線(例えば殺菌に)や赤外線(例えば加熱や乾燥に)も利用する領域。(5)誘蛾灯や集魚灯,あるいは電照栽培などのように人間以外のものを対象にして光を利用する領域。
以上の5領域のうち,(1)から(3)までは人間の目に見える光,すなわち可視光線の利用分野であるが,(4)では人間には見えない紫外線,赤外線も光のうちに含めており,(5)は人間以外の生物を対象にしている。狭義の照明は(1)~(3)だけを意味するが,広義の照明技術は(1)から(5)までの全領域を包含する。
自然の光の利用は,原始建築もしくは洞穴などにおける〈あかりとり〉からである。それ以来今日まで人類の利用する光の主体は自然光であった。これは現代でも変わりはなく,今でも多くの人々が昼光の下で生活を営んでいる。他方,人工の光源は人類が火を入手するのと同時に始まった。以来,長年月の間に人類は火の制御法と利用法を開発し,それがいわゆる〈灯火〉の多彩な発達を促した。しかし,〈夜も昼のように〉明るく照明されるようになったのは電灯の発明以後である。したがって,今日では人工の光源といえば電灯のことであり,人工光源による照明は電灯による照明を指す。電灯発明前のあかりについては〈灯火〉の項目を参照されたい。また,建築物における自然光の利用法については〈採光〉の項目で述べられている。
現在実用されている光源は白熱電球,放電灯および蛍光灯である。電灯の最初はアーク灯で,1808年H.デービーによって発明されたが,まぶしいのと,炭素蒸気を出して空気を汚すので,もっぱら街路灯に使用された。これが放電灯の始まりである。実用的な白熱電球は1879年にT.A.エジソンによって開発された。エジソンは最初縫糸を炭化した炭素フィラメントを使ったが,のちには日本の竹材(京都府八幡市の産という)を炭化して使用した。その後フィラメントにタングステンが用いられるようになり,内部に不活性ガスが封入され,フィラメントが二重コイルになるなど数々の改良が加えられて今日に至っている。一方,放電灯のほうは1808年のH.デービーのアーク灯の公開実験以後,70年に発電機が発明されるまでは大きな進歩はなかったが,発電機の出現によって放電灯も盛んに研究されるようになった。実用的な放電灯の最初はフランスのクロードGeorges Claude(1870-1960)がパリのグラン・パレに点じたネオンサインである(1918)。その後1930年代初頭にナトリウム放電灯や高圧水銀灯が次々と実用化され,現在ではさまざまな放電灯が屋内外に採用されている。蛍光灯も一種の放電灯で,低圧水銀蒸気中の放電によって紫外線を発生させ,その紫外線を蛍光物質にあてて可視光線に変えているものである。蛍光灯の実用化は38年アメリカのゼネラル・エレクトリック社のインマンG.E.Inmanによって達成された。
光は放射の一部である。放射とは物質の移動を伴わずにエネルギーが空間を伝わる現象で電磁波とも呼ばれる。光として目に感ずるのは波長が約380~780nm間のごくわずかの範囲の電磁波である。目が光の感覚を起こすのはこのきわめてわずかな波長範囲の電磁波であるが,さらに波長の相違によって明るさの感覚が異なる。例えば,太陽光を分光したスペクトルを見ると,スペクトルの黄の部分は明るく感じ,赤や青の部分は暗く感ずる。このように目が感ずる放射は同じエネルギーの放射でもその波長によって目の感度が違い,波長555nmの放射をもっとも明るく感じ,波長がこれより長くなるか短くなるかに従って,しだいに明るさの感覚は減ずる。波長555nmの明るさ感を1とし,これと同じエネルギーをもつ他の波長の放射の明るさ感を比較値で表したのが比視感度である(図1)。波長780nmよりも長い部分は赤外線であり,目に光の感覚を起こさない。また,波長380nmよりも短い部分は紫外線で,これも目に感じない。
われわれをとり囲む照明環境は放射によってでき上がっている。しかし,照明環境を感覚するのは人間であるから,照明環境を設計するときにあらかじめ放射を人間の感覚を基準にして評価しておいたほうが便利である。つまり,人間の目に感じられる放射は勘定に入れるが,人間の目に感じられない放射(赤外線や紫外線)は切り捨てる。このように定義されているのが光束である。すなわち,光束F(単位はルーメンlm)は,
この式において,λは放射の波長(nm),V(λ)は比視感度,P(λ)は放射をλについて展開したスペクトル(単位はW/nm,つまり1nm当りの放射束(W))。V(λ)を通じて光束に人間の感覚が織り込まれているのである。
ある場所の明るさを測るには,照度計を用いて照度(単位ルクスlx)を測るのがふつうである。照度とは単位面積(m2)当りに入射する光束量(lm)である。例えば,市販の15W蛍光灯スタンド(高さ約40cm)を机の上に置くと,机上の照度は図2に示すような照度分布になり,ここで本を読むとすると本の上の照度は約300 lxとなる。また図3はわれわれが日常しばしば経験する種々な場合の照度を示したものである。物の単位面積(m2)から出る光束(lm)をその面の光束発散度(単位ラドルクスrlx)という。点光源から単位立体角当りに出る光束量(lm)を光度(単位カンデラcd)という。
物の形や色が目に見えるのは,物の面から目の方向へ反射した光が目に入るからであり,窓や光源が目に見えるのは,窓を透過した光や,光源から出た光の一部が目の方向に進んで瞳孔に入り,網膜上に映像を結ぶからである。したがって,物の面の明るさ感や光源の輝き感ともっとも関係をもつ光の強さは,物や光源の輝度である。輝度とは,図4に示すように,光源面からある方向への光度をその方向への正射影面積で割った値で単位はcd/m2である。
光を有効に利用するための照明計算に必要な諸法則を紹介する。
(1)距離の逆2乗の法則 一つの点光源のある方向の光度がI(cd)であるとき,r(m)の距離にある光の方向に垂直な面上の照度(単位はルクスlx)は(図5),
これを照度に関する〈距離の逆2乗の法則〉といい,照明計算における基本法則の一つである。
(2)入射角の余弦法則 光度I(cd)の点光源Lによって,面A上の点Pを照明する場合を考える(図6)。LP間の距離をr(m),Aに立てた法線PNとLPの間の角(入射角)をθとする。この場合,点Pに得られる照度E(単位はlx)は,
これを〈入射角の余弦法則〉という。
さて,考える面によって,照度には法線照度,水平面照度,鉛直面照度がある。図7によって記述すると次のようになる。
(1)法線照度 光線の方向rに垂直な面上の照度で,P点で得られる最大の照度である。
(2)水平面照度 床のように水平な面の照度で,Enの鉛直方向の成分である。
(3)鉛直面照度 壁のように鉛直な面の照度で,Enの水平方向の成分である。
点光源による照度は以上のような法則を応用して計算できる。ただし,光源の各方向の光度データ(配光曲線)が必要である。大きさを有する線・面光源についても,光源の微小部分については点光源の場合と同様にして求められるから,その総和を求めればよい。このように1点1点の照度を計算する手法を〈逐点法〉という。
屋内照明の場合,実際に得られる照度は逐点法による計算値を上回る。それは室内各面で光束が反射されるからである。照明器具から出た光は天井や壁,床などで反射されるので,実際に作業面(照明設計で仮想する面で床面上85cmの水平面,日本間では畳上40cmの水平面)に達する光束は,照明器具からの全光束とは相違している。照明器具からの全光束に対する作業面上の光束の比を〈照明率〉という。
いま,室の床面積をA,作業面の平均水平面照度をEとすれば,作業面に到達する全光束はEA。照明器具1個当りの光束をF,この室にとりつける照明器具の個数をNとすれば,全部の照明器具からの光束はNF。よって,照明率Uは,
U=\(\frac{EA}{NF}\)
この照明率Uには次の諸要因が影響する。(1)照明器具の配光,(2)室の形状,(3)室の内装の仕上げ(反射率)。各種の照明器具のカタログには,それぞれの器具の照明率が室形状と反射率(壁,天井,床の)をパラメーターにして表示されている。そこで,この照明率Uを使えば,設計照度E,床面積Aの部屋の全般照明は次式により設計できる。
N=\(\frac{EA}{UFM}\)
ここに,Mは保守率といって,ランプ光束の減少や室内面の反射率の低下などを前もって見込む係数である。1個当り光束Fの照明器具を採用すれば,上式により器具の個数Nが決定できる。このように照明率を使って全般照明を設計する方法を〈光束法〉という。
さて,光束法により照明設計を進める場合,設計照度すなわち照度の目標値を設定しなければならない。そのよりどころとなるのが日本工業規格の照度基準である。これには詳細にわたりいろいろな場所の照度が推奨されているが,図8にそのごく一部を抜粋して示す。なお,労働安全衛生規則および事務所衛生基準規則によれば,精密作業300lx以上,普通作業150lx以上,雑作業70lx以上と明文化されており,これを順守すべきことは論をまたない。
表1は照明方式をいろいろな観点から分類したものである。まず,光源別では,事務所,工場,大規模店舗などにおいて,蛍光灯やHIDランプ(high intensity discharge lampの略。高輝度放電ランプともいう)による効率本位の高照度,省電力照明が好まれ,色彩の検査作業や色物を扱う店舗のほか美術館,博物館では高演色性の蛍光灯やメタルハライドランプ(水銀に金属ハロゲン化物を添加して色と効率を改善した一種の水銀灯)による高演色性照明が賞用されている。演色性とは光源が物の色を自然に見せる特性である。また,体育館や屋外スポーツ施設では,蛍光水銀灯(水銀灯の管内面に蛍光体を塗布して光色,効率を改善したランプ),またはメタルハライドランプと高圧ナトリウムランプとの混光照明(俗にカクテル照明)が流行している。
照明方式別には,部屋全体を照らす全般照明,作業個所を手もとから照らす局部照明,両者の併用照明,ベンチ作業などに好適な局部的全般照明がある。とくに店舗では,商品を目だたせて購買意欲をそそり,インテリアとの調和を考えて,ベース照明,重点照明,装飾照明などと呼称する。
配光別では,間接照明(下向きの光が10%以下),半間接照明(10~40%),全般拡散照明(40~60%),半直接照明(60~90%)および直接照明(90%以上)の5種に分類されるが,後3者がよく用いられる。
建築と一体化した建築化照明は,長時間作業したり,雰囲気を重視する部屋に用いられ,天井全面に金属またはプラスチックのルーバーを張ったルーバー天井,乳白または透明プリズム模様のアクリルカバーを全面に張った光天井,天井取付設備機器(照明器具,スピーカー,火災感知器,スプリンクラーヘッド,空調吹出口,吸込口など)をモデュール単位で一体化したシステム天井があり,これらはいずれも直接照明である。長押(なげし)から天井を照らすコーブ照明のほか,壁面を上隅から照らすコーニス照明,中壁に遮光帯を設け,上下の壁面を照らすバランス照明という手法もある。
そのほか,昼間の窓からの採光を扱う昼光照明,この採光と見合って,窓際から部屋の奥にかけて昼間も常時点灯する常設補助人工照明のPSALI,空調吸込口または吹出口と一体化を図った空調照明器具,仕事机の照明はもちろんのこと,その周辺,パーティションの壁面および天井面へも照らすようにしたタスク・アンビエント照明,劇場やテレビスタジオでの調光照明,投光器を使った投光照明など,枚挙にいとまがない。
照明分野のうちで,もっとも典型的かつ広範な応用分野は,楽しい憩いの場を提供する住宅照明である。日本の家庭の蛍光灯化率は,欧米各国の20%以下に対して,実に80%に近い値に達し,世界一の蛍光灯普及国といえる。また,環形蛍光灯が普及しているのも,日本の住宅に小部屋が多いことに起因しており特徴的である。
住宅の照明は,従来の1室1灯主義から,最近は1室多灯多目的照明へと移行しつつあり,配線も時間,場所,目的に応じて点滅や調光ができるようにし,こまめに消して明るく使おうという照明の効率的使用への気運が高まっている。すなわち,新築住宅のリビングルームは少なくとも10畳以上に広くとり,天井灯,ブラケット,スタンドなどを適宜に配置して,あちらをつけてこちらを消すといった時間的変化をもたせるなど,生活をエンジョイすることを考えたい。電球や環形蛍光灯のシャンデリアは小型の段調光器組込みのものもあり,効果的な照明器具である。光源の選び方としては,長時間いるリビングルームや居間,書斎,勉強部屋などでは高効率の蛍光灯を,また,玄関,廊下,階段,便所,洗面所などではこまめに消せば短時間使用ですむので,瞬時点灯の電球が好ましい。照明器具の選定は,一般にシンプルで飽きのこないデザインのものがよく,さらに長もちする材質と,光学的性能のすぐれたものを選ぶことがこつである。なお,デラックスな雰囲気をかもし出すシャンデリアまで,多種多様の機種が取りそろえられるようになっているので,各部屋別に居住者のさまざまな意見の最大公約数を考慮し,かつトータルインテリアとして調和するものを選びたい。また,せっかくよい照明を採用しても,ランプの黒化が目だったり器具の掃除を怠ったりしている事例がよく見受けられるが,ランプの交換と年に1~2回の清掃を励行することが肝要である。表2は部屋別に見た明るさの基準,表3は部屋の大きさとワット数の関係を示したものである。
紙に印刷された文字や写真が目によく見える条件(明視の条件)について述べる。明るさ,コントラスト,大きさ,動き(時間)の四つが物の見え方を決めるもっとも重要な条件である。これらの条件のうち,コントラスト,大きさ,動きの三つは,主として物に備わっている性質であるから変えることは困難で,もっとも容易に変えることができるのは明るさだけである。ここに物を明視させる手段としての照度の重要性がある。しかし,単に明るくすればよいというものではなく,明るさ,コントラスト,大きさ,動きの四つの条件の相互間の関連性を考慮しながら照明しなければならない。以下,各条件について述べる。
(1)明るさ 紙面の文字や写真が鮮明に見えるか見えないかは,まず第1に紙面から出て瞳孔に入る光が多いか少ないかによって左右される。すなわち,目の方向の紙面の輝度が見え方に対するもっとも直接的な量となる。しかし,紙面みずから発光しているのではないので,紙面の輝度はそこに当たる光の照度によって左右される。したがって,この場合,文字や写真の見え方を左右するのは照度であるということもできる。ところが,紙面の照度に変わりがなくとも,反射率(表4)が高いものほど多くの光を反射するので,目に入る光も多く,したがって明るく感ずる。照度は同じでも,反射率の相違が目の明るさ感に変化を起こす。さて,何ルクスの照度を人間に与えれば物が見えるか。10lxもあれば新聞を読むことは可能である。10lxで新聞の細かい字まで読めるならば,ふつうの読書にも10lx程度の照度があればよいのではないかという考えが起こるかもしれない。しかし,文字を読むことができる最低の照度と,快適にしかも健康的に読書が続けられる照度との間には大きな隔りがある。それならば,快適にしかも健康的に読書が続けられる照度は何ルクスか。ふつうの読書のような場合は500lx以上,コントラストが弱く細かい物を見る仕事には1000~2000lxが必要である。明るさを増すことによって,目のほとんどあらゆる働きが増進するので,コントラスト,大きさ,動きなどの条件が見るために不利であっても,照度を高くすることによって,かなりよくこれらの不利な条件を補い,物をはっきり見させることができる。
(2)コントラスト 対比ともいう。文字が目に見えるのは,紙面の輝度と文字の輝度との相違,つまりコントラストが目にうつるからであり,ふつう両者の輝度の差が大きいほど見やすい。隣接する二つの面の輝度をそれぞれAとBとし,A>BならばコントラストCは,
C=\(\frac{(A-B)}{A}\)
コントラストは100倍してパーセント・コントラストで表すことが多い。文字に限らず,あらゆる物が目に見えるのは,物とその背景との間にコントラストがあるからである。例えば空気のように肌で感ずることができても,目に見えないのは,コントラストが生じないからである。このようにコントラストは,物の見え方を左右するもっとも大きな条件の一つであるが,背景と物の輝度が等しくても,色が違う場合は物を認めることができる。しかし,色の対比は輝度の対比に比べると影響力は少ない。
(3)大きさ 文字を読んでいて気づくことは,明るさと対比が同じ条件であっても,小さな文字は読みにくく,大きな文字は見やすい。一般に網膜にうつる文字の映像が大きいほど見やすい。したがって,ごく小さな文字を読むためには,目を文字に近づければよく見える。網膜にうつる文字の大きさは,文字の大きさとそれを見る距離とから定まる視角θによって左右されるので,目を文字に近づければ,文字の大きさは変わらなくても視角が大となり,網膜に文字が大きくうつるのでみやすくなる。しかし,人間の目はどんな近くまでも目をよせても見ることができるわけでなく,ピントを合わせられる距離(近点距離)には限度がある。この限度は水晶体の弾力性に関係するので,若くまだ弾力性に富む人は,かなり近距離まで目を近づけてもピントがぼけないが,年齢が進むにつれて水晶体がかたくなるので,ピントを合わせることができる最短距離も,年齢につれてだんだん長くなる。約42歳以上の年齢になると,30cmの距離(明視の距離)にピントを合わせることができなくなるので,細かい文字を読むためには老眼鏡(凸レンズ)が必要になる。
(4)動き(時間) これまで述べたように,例えば本の文字が楽に読めるか読めないかは,明るさ,文字と紙とのコントラスト,文字の大きさなどの条件によって左右される。静止しているものを見る場合は,これらの3条件で足りるが,そのほか動く物を見ることも多い。また物が動かなくても見るほうが動いていることもある。見え方に関係するのは速度そのものではなくて,1秒間に視角何度動いたかという角速度が直接に関係する。
照明の質というとわかりにくいので,これをわれわれが日常とる食事にたとえて説明する。食事にまず必要なことは,十分なカロリーがあることであるが,カロリーだけ十分にあればよいというものではなく,料理の味やにおい,色,食器その他いろいろ質的なことが食事をするうえに大きな関係をもつ。食事の場合のカロリーは食事の量の問題であり,料理の味やにおい,色などの問題は食事の質の問題である。照明の場合は,食事のカロリーに相当するのが照度(ルクス)であり照明の量である。料理の味やにおい,色その他の条件が,照明ではまぶしさ,光の色,かげのぐあいなど照明の質に相当する条件となる。食事の場合でもカロリーは容易に測れるが,料理のうまさなど質的なことは簡単に数字で表せないように,照明でも照明の量(ルクスの大きさ)は簡単に測定できるが,照明の質は種々な条件について考えなければならないと同時に,これらを数量的に表現したり計算したりすることがなかなかむずかしい。現在いろいろな試みがなされているが,まだ解決されない多くの問題も残されている。以下,照明の質に関係する要因を指摘する。
(1)グレア グレアというのは,視野の中に飛びぬけて明るい物があったり,強すぎるコントラストがあったりすると,不快な感じを受け,さらに程度が進むと,実際に物が見えなくなる現象を指す。照明の量(ルクス)は多いほどよいが,高い照度に伴って現れやすいこのグレア(要するにまぶしさ)に注意する必要がある。このグレアは,輝度分布パターンの質的評価の指標であるともいえる。読書の場合に当てはめてみると,紙面の輝度とその周囲,例えば机の面やその周囲の輝度とが等しいかまたは机の面やその周囲の輝度が紙面よりもやや低い程度がもっとも読みやすく,本の周囲に紙面よりも高い輝度のものがあると,読みにくくなる。また,机の上はスタンドのみによる照明で,紙面だけを明るくして,まわりを真っ暗にした場合も文字の見え方は悪くなる。勉強などを長時間にわたってする場合は,目はつねに本の上を見ているとは限らず,ときどき周囲の物,とくにしばしば上のほうに目を走らせる。また教室では学生は机の上のノートを見たり,黒板を見たりする動作を繰り返さなければならない。したがって,視野内の輝度の状態だけでなく,視野外の輝度の状態も考慮する必要が起こる。この場合も視野の中の輝度とそれ以外の輝度が等しいか,あるいは視野の外がやや暗い程度がよい。視野の外でも輝度の高いものがあったり,逆に暗黒であったりすると,目や首を動かすたびに,それらの明るさに目が順応しなければならないので,不快感や疲労を起こすことになる。
最近の建物は,冷暖房などの関係から,天井が低く奥行きの深い室が作られる傾向がある。そういう室では,窓からの光が室の奥まで届きにくいので,窓際に比較すると室の奥が暗くなりすぎるとともに,窓を背にした人の顔が真っ黒に見えたりする。たとえ室内の照度の平均値が十分に高くとも,照明環境としては,窓際と室の奥の照度の差があまり大きいのはよくない。そこで,これを是正するために,昼間だけ室の奥から照明する設備を建物に組み込んで,室内の明るさのバランスを保つことが推奨される。常設補助人工照明(PSALI)といわれるこの照明方法は,〈夜は暗いから照明する〉という常識とは正反対の考えで,〈昼間明るいから照明する〉方法である。
(2)かげ 光が物に当たることによって生ずる〈かげ〉は,物の形や立体感を見るうえに重要な働きをしている。もし,かげがなかったならば,物を見るのに不自由なだけでなく,奇妙な世界になるであろう。照明でかげというと二つの内容がある。一つは見ようとするものの上に落ちるかげ,例えば手暗がりとか,頭のかげとかいうようなもので,物を見るうえでじゃまになるかげである。いま一つは,見る物に生ずるかげで,物を見るうえに役だつかげである。例えば,かげがあるために物の存在がわかったり,物の丸みが見えたりする場合のかげのことである。
物を見るのに役だつかげとしてもっとも重要なものは,物の表面の凹凸に生ずるかげで,物の立体感を生ずるためになくてはならないものである。あまりかげがうすいと平面的な感じになるし,またどぎついかげがつくと不快な感じがする。ゴルフボールのようなものの立体感がもっとも自然に見えるのは,ボール面の輝度の最大と最小の比が,2:1から6:1の範囲内の場合がもっともよい。蛍光ランプの長所の一つに,かげが少ないことがあげられるが,これは光源の面積が広いとどぎついかげが生じないからである。
(3)光の質 料理の材料に相当する問題が,照明では光そのものの性質である。光の性質についての問題のうちもっとも一般的なものは,蛍光ランプと白熱電球との光色の相違であろう。光色についての両者の物理的な相違は分光分布にある。その結果,目で見た感じとして電球の光は黄赤がかっており,蛍光ランプの一般に使用されているものでは,光は白ないし青みを帯びている。心理的には電球の光の色は人間が太古の時代から夜間の灯火として親しんできた炎の色に近いので,夜間の休息や家庭のだんらんに適しており,蛍光ランプの光の色は自然の昼の光に似ているので,事務所や工場で人が働く場所の照明に適している。このように,物理的にも心理的にも互いにかなり相違する電球の光と蛍光ランプの光とで,物の色の見え方を比べると多少の相違がある。しかし,色の見え方は分光分布の違いほど著しくは感じられない。
(4)順応 図3に示したように,目が経験する明るさは月明りから直射日光下に至るまで実に1:106もの幅がある。人間の目は明るさに応じて瞳孔の大きさを変えて目に入る光の量を調節している。しかし,瞳孔運動による光の調節だけではとても足りない。例えば昼間,映画館に入ったとすると,初めは足もとが真っ暗で歩くにも不自由するくらいであるが,時間の経過とともにしだいに足もとや周囲のようすが見えてくる。これは網膜の感光度が時間とともに高まるからである。このように目の網膜には明るさに応じて感光度を大幅に変える働きがあり,これを順応という。暗い場所に入って網膜の感光度が高くなる場合を暗順応,逆に明るい場所に出て感光度が低くなる場合を明順応という。動的な照明環境を設計する際に,順応は考慮しなければならない重要な現象である。高速道路のトンネルの照明にはこの現象が配慮されている。
執筆者:伊東 孝+川瀬 太郎
目には,十分な明るさ,まぶしさのないこと,照度に動揺のないこと,光色が太陽光に近いことおよび安全性が重要である。目の衛生ならびに作業能率上からは照度不足,照度過剰,周囲の照度の大きなアンバランスはいずれもいけない。近視の原因の一つは照度不足にある。労働安全衛生規則,学校保健法などのほか,都道府県の建築安全条例などにも照度の最低基準が示されている。精密作業や教室では作業台や机上で100lx以上,普通作業では50lx以上,講堂25lx以上,廊下,階段10lx以上などであるが,JIS(日本工業規格)では照度基準は上記の場合それぞれ500,200,100,50lxとしている。
執筆者:溝口 勲
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…この考えはプラトンのイデア説とプロティノスのヌース(知性)説に生かされ,霊魂の純化と上昇の道を教えるとともに,霊魂が想起によって自己のうちに真理を見いだすことも説かれた。アウグスティヌスはこれにならい,知的真理の発見と精神の自己認識とを神的光の〈照明illuminatio〉に帰した。その光は存在そのものの光であるとされ,照明説は認識の働きに存在論的根拠をおくものでもあった。…
…ただし,住宅の外郭は内部の生活を保護するだけでなく,敷地周辺の環境を形成する一つの要素でもあり,その意匠は周囲との調和あるいは周囲の環境の向上に寄与するものでなくてはならない。一方,内部(インテリア)の意匠は,住生活における精神的な安らぎや満足感に深く関与し,室内の雰囲気を決める床,壁,天井の材質や色彩,家具,照明,カーテン,絵画・観葉植物などの室内装飾品や室内小物など居住者自身によるくふうや演出によるところが大きい。室内の意匠には,日本の伝統的な座敷のように物をほとんど置かず床の間の飾りつけに凝縮するやり方もあるし,西欧住宅の居間のように家族の歴史を物語る写真,記念品や絵画,装飾品で室内を飾りたてるやり方もあり,方法はさまざまであるが,住む人の考え方や美意識にかかわる個性が表現されているのが好ましい。…
…この屋内の火は,石の囲いなどの簡単な造りの炉で燃やされる裸火として出発した。炉火は暖房,炊事,虫よけなどの用途のほか,屋内の照明としても機能した。未開社会の住居で,炉火以外に照明用の灯火を常用していた例はむしろ少数に属する。…
…
[舞台照明の役割とその歴史]
舞台照明とは光をもって劇芸術の創造に参加することをいう。劇芸術には,演技者,音楽家,舞踊家など,舞台に出演する人たちのほかに,舞台装置,舞台照明,舞台衣裳,音響効果など,スタッフとよばれるさまざまな仕事がある。…
※「照明」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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