大道具(読み)おおどうぐ

精選版 日本国語大辞典 「大道具」の意味・読み・例文・類語

おお‐どうぐ おほダウグ【大道具】

〘名〙
① 槍(やり)別称
舞台装置うち、建物、書割(かきわり)、樹木、岩石など、出場人物が手にとらない道具の総称。⇔小道具
※歌舞妓年代記(1811‐15)一「玉川しゅぜんと相座本(あひざもと)にて、つづき狂言、引まく、大道具(オホダウグ)立始る」
都新聞‐明治三七年(1904)一月二〇日「大道具の長谷川曰く〈略〉見物を驚かす程の道具を見せんと請負費用の増額言出でしも」

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デジタル大辞泉 「大道具」の意味・読み・例文・類語

おお‐どうぐ〔おほダウグ〕【大道具】

舞台装置のうち、建物・背景・樹木・岩石など、大がかりな飾りつけの総称。⇔小道具
大道具方」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「大道具」の意味・わかりやすい解説

大道具 (おおどうぐ)

舞台用語。劇中に舞台に飾りつける諸物のうち,山,野原,海,川などの背景や,建物,樹木,土手,岩石など大がかりなものをいう。屋内の諸道具や俳優の持道具をさす〈小道具〉に対するもので,単に〈道具〉と呼ぶこともある。歌舞伎から出た語であるが,現代では一般の演劇から映画・テレビなどの用語にもなっている。ただし,一般演劇では〈舞台装置〉,映画・テレビなどでは〈セット〉という語の同義語として使われるが,歌舞伎本来の大道具とはもっと範囲が広く,〈引幕〉〈回り舞台〉〈セリ〉など劇場常備の舞台機構も含まれ,道具の作製と飾りつけや機構の操作を受けもつ職業を〈大道具師〉〈大道具方〉または〈道具方〉と呼んでいる。

 初期の歌舞伎は能舞台をそのまま模したような舞台で,演目も単純な一幕物ばかりだったから,大道具も簡単であったが,脚本が進歩して多幕物が発達し,演出も複雑になるにともなって,それまで舞台装置に類するものを担当していた大工職が独立し,専門の大道具師が生まれた。大道具師の祖といわれるのは江戸日本橋の宮大工の子,初世長谷川勘兵衛(?-1659)で,その後世襲した代々の勘兵衛によって技術は急速に進歩して現在に及んでいる。

 歌舞伎の大道具は,基本的には〈二重(にじゆう)〉と〈張物(はりもの)〉の二つで構成される。二重とは舞台の床と平行で一段高い,家屋,土手,山などの土台を作る台のことで,高さによって常足(つねあし),中足(ちゆうあし),高足(たかあし)などの種類がある。張物とは,家屋の壁や背景などのために舞台に立てる板状のもののことで,ふつう縦2間(約3.6m)横6尺(約1.8m)の大きさで,1寸(約3cm)角の木材で枠を作り,桟をつけ紙を張って作る。背景や壁などは,張物を適当な大きさに切ったり,つないだりした上に絵をかいたもので,これを〈書割(かきわり)〉と呼ぶ。

 大道具師は,ふつう骨組を作る〈大工(だいく)(生地(きじ)ともいう)〉,紙や布を張る〈張り方〉,塀,屋根,壁などを描く〈塗り方〉,景色,立木,襖(ふすま)絵など絵画的な絵を描く〈画師(えし)〉などの職分に分業されていて,その流れ作業によって大道具が製作される。そのほか,歌舞伎では仕事の範囲がきわめて広く,前述の舞台機構の操作をはじめ,天井から雪や花を降らせることや,幕引き,ツケ打ちも大道具が受け持つ。

 回り舞台を考案したのは,宝暦期(1751-64)の大坂の作者並木正三といわれるが,これを江戸へ移して完成させたのは8世長谷川勘兵衛だという。その後,舞台へ切穴をあけて人物や道具を上下させるセリの機構をはじめ,道具の一部を綱で引っ張って前後左右に出したり引っ込めたりする〈引(ひき)道具〉や,壁,風景などの張物の一部を四角に切って中央に軸を入れ,回転させて人物を瞬時に出没させる〈田楽(でんがく)返し〉,舞台装置全体を前後に半回転させて場面を転換する〈がんどう返し〉などが考案された。文化・文政期(1804-30)には怪談狂言の流行につれて変化に富んだ仕掛物がくふうされ,天保期(1830-44)には舞踊劇様式的な古典劇で舞台に敷く〈置(おき)舞台〉が始められている。

 一方,歌舞伎の発達にともなって演出に基本的な型ができてくると,舞台の構造にも一定の様式が生まれ,大道具でも一定の高さ,長さ,幅,柱の太さ,壁・襖の色彩と模様など,何にでも利用できる道具がくふうされ劇場に常備するようになった。これを〈定式(じようしき)大道具〉または単に〈定式物〉という。前記の置舞台をはじめ,二重,立木,木戸,障子,高欄,階段などで,これらを組み合わせて構成される屋体を〈定式屋体〉と呼んでいる。

 歌舞伎以外の舞台芸術はもちろん,歌舞伎でも新作の場合は,定式物では間に合わないものが多いので,舞台装置家の意図にそってさまざまな道具を特製する。また,近年の劇場では,セリ,回り舞台などの機構は電気で操作するので,その作業も他の部門が受け持つことが多い。
小道具 →舞台装置
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大道具」の意味・わかりやすい解説

大道具
おおどうぐ

演劇舞台用語。劇中、舞台に飾る諸物のうち、背景、家屋、樹木、岩石など大掛りなもの。登場人物が手に持つ「小(こ)道具」に対する語。歌舞伎(かぶき)から出た語だが、今日では広く各演劇ジャンルで使われ、単に「道具」とよぶこともある。大道具の作製、飾り付け、転換などを受け持つ職業を「大道具師」「大道具方(かた)」、または「道具方」という。初期の歌舞伎は能舞台をそっくり模したような舞台で、演目も単純な一幕物ばかりだったから、大道具も簡単だったが、多幕物が発達し、俳優の演技が複雑になるにつれ、それまで舞台装置に類するものを担当していた大工職が独立し、専門の大道具師が生まれたことにより、技術と機構が著しく進歩した。大道具師の祖といわれるのは、江戸・日本橋の宮大工の子、初世長谷川(はせがわ)勘兵衛(?―1659)である。

 歌舞伎では、発達につれて演技に基本的な型ができてくると、舞台の構造も一定の様式を備えるようになり、大道具でも一定の高さ、長さ、幅、色彩などをもち、何にでも活用できる「定式(じょうしき)大道具」をくふうし、劇場に常備するようになった。たとえば、舞踊劇や様式的な古典劇に使う所作(しょさ)舞台をはじめ、二重(にじゅう)、木戸(きど)、欄間(らんま)、勾欄(こうらん)、三段、障子などで、これらを組み立てて構成される屋体を定式屋体とよんでいる。

 普通、大道具は、骨組をつくる「生地(きじ)」(または「大工(だいく)」)、紙や布を張る「張方(はりかた)」、塀、屋根、壁などを描く「塗方(ぬりかた)」、景色、立ち木、襖絵(ふすまえ)など絵画的な絵を描く「画師(えし)」などの職分に分業され、その流れ作業によって製作される。一般に大道具は舞台装置と同義語のように思われているが、歌舞伎では範囲が広く、回り舞台、せり、引幕なども含まれ、ツケ打ち、幕引きや、天井から雪や花などを降らせることも、大道具方の受け持ちになっている。

[松井俊諭]

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百科事典マイペディア 「大道具」の意味・わかりやすい解説

大道具【おおどうぐ】

舞台装置のうち場面の情景を表したり,演技を助けるための,俳優が動かすことのできない大きな飾物をいう。建物や樹木,岩石,背景など。なお回り舞台やせり出しなど舞台機構の一部も含まれる。→小道具
→関連項目切出せり丸物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大道具」の意味・わかりやすい解説

大道具
おおどうぐ
stage setting; scenery

舞台美術の一環で,建物,樹木,岩石などの書割や切出しなど,登場人物が手に取ることのない舞台装置や舞台機構をさす。古代劇場では舞台の機構自体が装置の機能を果しており,大道具が用いられるようになったのはルネサンス後期からである。イタリア絵画の影響を受けて,遠近法による書割や切出しを主としたが,この傾向は 19世紀の写実主義の台頭とともにますます強調されて,舞台での現実の再現が追求された。しかし 19世紀末になると,G.クレイグや A.アッピアがこれに反対し,照明によって舞台の空間を確保しながら,作品に必要な雰囲気をつくりだす方向へと向った。

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とっさの日本語便利帳 「大道具」の解説

大道具

舞台装置のうちの樹木、岩、家並など大きな建物。これら背景となる絵を書割(かきわり)、役者が手に取って使うものを小道具という。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の大道具の言及

【歌舞伎】より

…また,爽快でスピーディなテンポで行われる見世物的演出を劇の中で駆使し,奇抜な趣向を可能にした。たとえば《東海道四谷怪談》に見る提灯抜け,戸板返し,仏壇返し,忍び車など大道具の仕掛け,そのほか鬘や小道具の仕掛けを駆使している。だが,南北の才能も,個性の強烈な実力派の役者たちがいてこそ花開いたものである。…

※「大道具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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