改訂新版 世界大百科事典 「イロコイ諸族」の意味・わかりやすい解説
イロコイ諸族 (イロコイしょぞく)
Iroquois
北アメリカ北東部の森林地帯に居住していたインディアンで,イロコイ系言語の話者の総称。そのなかで,セネカSeneca,カユガCayuga,オノンダガOnondaga,オナイダOneida,モホークMohawkの5部族(後にタスカローラTuscaroraが加入して6部族)がイロコイ同盟を結成していた。L.H.モーガンの研究によりイロコイ同盟は広く知られている。同盟を構成する諸部族はセント・ローレンス川流域からオンタリオ,エリー両湖周辺に居住していた。同盟が結成されたのは16世紀後半で,その契機は神話上の英雄ハイアワサの言動にあるといわれる。同盟の最高決定機関の構成員は各部族から出るサチェムsachemとよばれる男性であった。サチェムには序列があり,議長,権力ないし統一の象徴ワンパムの管理者などは特定のサチェムが務めたが,会議における発言権は平等で,全会一致による決定を原則とした。同盟の機能は各部族に共通する利害関係の調整で,主として対外関係に関する諸問題,なかでも戦争と平和に関する事項が決定された。とくに現在のカナダ東部に進出したフランス人植民者と毛皮交易の支配権をめぐって争い,周辺の部族との武力衝突も多かった。18世紀にはイロコイ同盟の支配権は大西洋岸からミシシッピ川上流域にまで及んでいたが,アメリカ合衆国の独立を契機にその勢力は急速に衰えた。
各部族内にはサチェムを中心に部族会議があり,部族内の諸問題が処理された。サチェムは特定の母系出自集団に属する男性に与えられた称号で,男性成員の中から女性成員により選ばれた。サチェムが幼少で任務の遂行ができぬ場合には女性成員が代理を務めた。イロコイ諸族の同盟にみられる政治組織は北アメリカ南東部のそれに類似していた。しかし,他の文化要素には北東部の森林地帯に共通するものが多く,トウモロコシを中心とする菜園的農耕,木製の杵と臼,樹皮・割枝製の籠,なめし鹿皮製の衣服などがみられた。住居はロング・ハウスと呼ばれる切妻屋根をもつ長方形の建物で,複数の母系各家族が決められた両側の空間に住まい,向かい合う2家族が炉を共有して使用していた。収穫への感謝,病気治療を目的とする宗教行事は各部族に共通で,もっとも一般的な行事は最初のトウモロコシの収穫時におこなわれるグリーン・コーン儀礼であった。また2月におこなわれる真冬の儀礼は重要で,感謝,慰撫,病気治療を目的とする儀式であった。とくに病気治療に関しては多数の結社が結成されていた。そのうち著名なのは仮面結社で,精霊の顔を表す仮面をつけ,亀の甲のがらがらとタバコを使用して治癒を祈った。19世紀初頭に一種の文化復興運動がおこり,イロコイとしての公正な言動,土地の保持,禁酒を通して往年のイロコイ諸族の統一と栄光を再現することを目指した。各部族の社会的統一と行事の多くは現在でも維持されており,とくに真冬の儀礼は血縁的・文化的結束を強固にする役割を果たしている。現在,イロコイ各部族はニューヨーク州やオンタリオ州の保留地と合衆国,カナダ東部の都市に居住している。
→アメリカ・インディアン
執筆者:小谷 凱宣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報