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インフレーション理論 インフレーションりろんtheory of inflation

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

インフレーション理論
インフレーションりろん
theory of inflation

インフレの原因,発生過程に関する理論。大別して,実物経済の需給関係,貨幣的現象,期待形成の3つの視点がある。 (1) 実物経済の需給関係を重視するものとして,経済全体の総需要が潜在的な供給能力を超えた超過需要の発生により物価を上昇させるディマンドプル型理論,および生産費用の上昇が価格を押上げるコストプッシュ型理論のほか,現象として需給のボトルネック・インフレ生産性上昇率格差インフレがある。 (2) 貨幣的現象の視点は,実物面の需給要因が物価の上昇として顕在化するには,貨幣供給の増加が必要であるとして,貨幣を重視するインフレ理論である。これは古典的な貨幣数量説,マネタリスト考え方である。 (3) 期待形成は,インフレ期待の形成により予想される物価上昇が現実の物価上昇を誘発する点に着目し,経済活動の情報を判断する経済主体の予想を重視する考え方である。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

インフレーション理論
いんふれーしょんりろん

宇宙の創生期に宇宙が急速に加速膨張をおこし、その加速膨張が終了するころ膨大な熱が発生して火の玉宇宙がつくられたという理論。この理論は1981年、複数の研究者によって提唱されたが、その一人、アラン・グースAlan Harvey Guth(1947― )によって、通貨供給量が急膨張するというなじみの経済用語、インフレーションをたくみに用いて宇宙の急膨張を表すことばとして名づけられた。経済用語との混同を避けるため、正確を期してコスミック・インフレーションともよばれる。[佐藤勝彦]

ビッグ・バン理論の問題点

現在の標準的な宇宙理論は、宇宙は熱い火の玉として生まれ、宇宙の膨張によって温度が低くなる過程で、ガスが固まり、恒星や銀河、そして銀河団などの宇宙の大構造が生まれたとするビッグ・バン理論である。インフレーション理論は、なぜ火の玉として宇宙が始まったかを説明し、かつこの理論が提唱される前の旧来のビッグ・バン理論の諸問題を解決するために考えられた理論である。[佐藤勝彦]

地平線問題

その問題の第一は地平線問題である。ビッグ・バン理論では、ある宇宙の時刻までに光速で因果関係をもつことのできる領域のことを粒子的地平線(以下、単に地平線)とよぶ。しかし、可視光をはじめとする電磁波の観測では、宇宙は地平線を越えてきわめて一様である。たとえば電磁波で観測できるもっとも宇宙初期、「宇宙の晴れ上がり」の時刻はおよそ宇宙時刻38万年であるが、宇宙背景放射観測衛星、COBE(コービー)、WMAP(ダブリューマップ)、またプランク衛星が示したように、あらゆる場所でほぼ一様である。一方この時刻での地平線の距離はおよそ76万光年(宇宙膨張の効果を含めると、およそ光速の2倍で光は伝播(でんぱ)する。つまり、光は空間に対してある一定の速度で進むが、空間自体が広がるため光も一定速度以上で進む)であり、宇宙はこの地平線を越えて一様である。地平線を越えた2点は宇宙創成以来、一度も情報の交換はされなかったはずであり、その2点が同じ温度だということはありえないことである。なぜなら、同じということは物質を混ぜるなどのプロセスがおこったはずであるが、そのようなことは地平線を越えておこりようがない。[佐藤勝彦]

大構造形成問題

また、地平線問題の裏返しのような問題もある。宇宙時刻約38万年ころの姿を描き出している宇宙背景放射には、10万分の1程度の温度ゆらぎがあるが、そのスケールは、その地平線よりはるかに長いものが観測されている。このゆらぎがあることは物質の密度ゆらぎにも対応しており、のちに超銀河団などに成長するものである。この地平線の長さを超える密度ゆらぎのスケールは、光速を超えるような速さで物質エネルギーを移動させなければ形成されないはずである。この問題は、宇宙の大構造形成問題とよばれている。
 またビッグ・バン理論では宇宙の膨張は一般相対性理論の式を解いて求められるが、宇宙の初期密度が臨界密度とよばれる値よりもきわめてわずかに上回っていても以後の宇宙の曲率は次第に大きくなり、現在観測されている宇宙のように平坦(曲率がほぼゼロ)にはならない。逆にこれよりきわめてわずかだけ下回っていても曲率が負となり平坦でなくなる。宇宙がつくられるとき、このような不自然な微調整が必要であることを平坦性問題という。[佐藤勝彦]

モノポール過剰生産問題

また、大統一理論とよばれる素粒子の基本的な力(電磁相互作用、強い相互作用、弱い相互作用)を統一的に記述する理論は、宇宙初期に磁気単極子(モノポール)が大量につくられることを予言している。しかし磁気単極子はみつかってもいないし、その数には厳しい上限値が観測から求められている。この問題は磁気単極子の過剰生産問題とよばれている。[佐藤勝彦]

インフレーション理論による問題の解決

佐藤勝彦(さとうかつひこ)(1945― )は1980年2月学術誌に受け付けられた論文で、インフレーションにより地平線が指数関数的に引き伸ばされ、旧来のビッグ・バンモデルのものよりきわめて長大になることを示した。またインフレーションによって地平線が長大になる効果により、地平線問題に関係する宇宙論の問題、たとえば大構造形成問題などが原理的に解けることを示した。また同年7月には共同研究者とともに、この効果により磁気単極子の過剰生産問題も解決できることを示した。グースも同年8月に地平線問題や平坦性問題が解決できることを明快に示した。[佐藤勝彦]

理論の進展

佐藤やグースの原初インフレーション理論は大統一理論の予言するヒッグス場で加速膨張を引き起こすが、この原初モデルでは、密度ゆらぎの度合いが大きくブラックホールなどができすぎることが指摘され、それを避けるため新しい改良された遅速落下モデルがリンデAndrei Dmitriyevich Linde(1948― )やスタインハードPaul Steinhardt(1952― )らにより提唱された。現在、さらに100を超える多様なタイプのインフレーションモデルが提唱されている。そのなかには、スタロビンスキーAlexei Starobinsky(1948― )が1979年に、相対性理論が宇宙初期ではアインシュタインのものではなく変形されると仮定して導いた指数関数的に膨張するモデルも含まれる。これらの多様なモデルでは、インフレーション中に存在する量子ゆらぎが引き延ばされ、現在の宇宙構造の種となる密度ゆらぎが形成されると予言されている。現在インフレーションをおこす場も、ヒッグス場とは限らなくなり、インフラトンと通称されている。[佐藤勝彦]

観測による理論の確認

このようにインフレーション理論は確定した理論ではないが、その予言する密度ゆらぎがアメリカの宇宙背景放射観測衛星、COBEで発見され、また銀河の分布の観測など天文観測とも整合性をもち、現在、宇宙初期の標準理論となっている。さらにインフレーション理論が予言する原子重力波の痕跡(こんせき)を観測しようとする計画も進んでおり、もし発見されれば理論の強い証拠になると期待されている。[佐藤勝彦]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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